第2章 HONEY & LOVER
最後に会ったのは何日前だったかな……。声を聞いたのは、三日前。
夏フェスは8月2日。翌日は朔良くんの誕生日。美味しいご飯が食べたいって、それだけだった。かと言って、プレゼントはしたい。
そんなことを悩んでいた時、両親から大きな箱が送られてきた。中身の1つはカタログ。イギリスで扱う洋服のカタログだった。
私が好きそうだからと送ってくれたみたい。そのカタログの中には、男性ものもあった。…………オーダーしました。朔良くんに似合いそうな洋服を見つけて。
勿論、私のものも数点。両親には感謝です。7日後には届くとのことで、楽しみです。喜んでくれるといいなぁ……。
他に送られてきたのは、イギリスのご当地料理本数冊。隅から隅まで、一言一句訳しました。その中でも美味しそうな料理を幾つかピックアップしてはチャレンジ。
ん?スマホの着信音。
「俺……」
朔良くんの声は、かなり疲れた様なものでした。
「お疲れ様、朔良くん。今日は撮影だっけ?」
「そう。ついでに、撮影おしてる。今日も終わるのが深夜っぽい」
この前も、同じ言葉を聞いた気がする。この前は落ち着くって言っていたけれど、逆に急がしさに輪がかかっている。
「ちゃんと食べてる?」
「ケイタリングとか弁当とかあるから、食うには困らない。でも、毎日が豪華な食事って飽きる。贅沢な悩みかもしれねぇけど」
と、兎に角、食べてるなら安心。最近は暑さが厳しいから尚更。
「明後日は、生放送だったよね。ちゃんと観るから」
「あぁ。ハァッ……結局、ガッコで会えず仕舞いか」
5日後には夏休みに入る。同じ講義を受けている教科では、タイミングは合わなかった。でも、こんな風に声は聞かせてくれる。
多忙な朔良くんだけど、合間を見繕っては連絡をくれるから嬉しい。ただ、元気のない朔良くんのことは心配だけど。
「伯母さんの店はどう?」
「何とか頑張ってる。去年より急がしいかな」
「そうか、お前の方こそ無理すんなよ。あ、時間みてぇ。また、連絡する」
そう言えば、朔良くんの前期試験結果……どうだったんだろう?短い時間だから、いつもお互いの体調確認や近況報告だけで終わってしまう。
私は切れたスマホを、暫く耳に当てていた。声を名残惜しく思うように……。