第1章 FIRST AND START
その日の放課後。伯母さんのお店を少し手伝っては、スーパーのタイムセールに挑んだ。
スーパーを出て満足気に買った品を確認していれば、背後から男性に声を掛けられた。
振り返った瞬間、いきなり抱き付かれた私。咄嗟に反応できなかった。
「い、嫌っ!!離して!!止めてっ!!!」
幾ら身をよじっても、男性の腕力には敵う筈もなかった。恐怖で、体が強張っていく。そんな時だった。
「こんな往来で何やってんだ?」
私に抱き付いていた男性は驚いて、一目散に逃げていった。私は足に力が入らなくなり、崩れ落ちる様に体が沈んでいった。
「っと……大丈夫か?あ……あんた」
「えっ?あ……い、いい声のお客さん?」
「また、その呼名か。って、本当に大丈夫か?」
すみません……足に力が入りません。でも、迷惑をかける訳には……。
「そのままじっとしてろ。さっきの男、諦めてない様だ。あの塀の向こうから、こっちを見てる」
その言葉に、私の体は更に固くなった。
「えらく執着している様だな。……仕方無い、そのままじっとしてろ」
「えっ?」
私の体は、フワリと浮いた気がした。男の人の顔が近くなる。少しして、私が抱き上げられていることに気付いた。
「あ、あのっ!私、全力で重いですからっ!!」
「何だ、全力で重いって。あんた、飯食ってるか?軽すぎるだろ」
男の人は、少し表情を緩めた。あ、何か……優しい表情。少し強面だったから、怖い人かと思ったけど……。
「そうだ、弁当だけど……」
「あ、お口に合いませんでした?」
「嫌……どちらかって言えば、胃袋捕まれたって言うか……その…………凄く旨かった。サンキュな」
照れ臭そうに話す男の人に、こんな時ながら嬉しくなった。その間、男の人は歩いている。
やがて、小さく舌打ちした。いきなり不機嫌な態度となり、私は身を固くした。
「あぁ、あんたのことじゃない。それにしても、どうするか……」
「どうって?」
「後、尾行されてる。幾ら、家族がいたってストーカー連れていくのはなぁ……」
私は、つい……男の人の服を掴んでは、震える声で白状した。
「わ、私……一人暮らしです」
「はっ?……それ、余計に不味くね?」
確かに…私も、恐怖しかありません。