第1章 FIRST AND START
朔良くんに手を引かれては、伯母さんのお店へと向かう。横断歩道の赤信号で立ち止まった時、何気に朔良くんを見上げた。
そんな私の視線に気付いた朔良くんは、ただ、柔らかい表情を浮かべては目を細めた。
「どうかしたか?」
「えっ?うん…………何か、こういう風に出掛けるのって、初めてだなぁって……」
「……そうだな。最近は特に忙しいし…………」
でも、何か楽しそうに見える。きっと、朔良くんは歌うことが好きなんだと思う。だって、あんな素敵な声だもの。
そんな中でも、約束を守ってくれて嬉しい。ただ…………いつまでこんな風に居られるのだろう?
そう考えては、寂しく思ってしまう。私の中で、私の気持ちは朧気だけど存在する。でも、言ってしまったら壊れてしまいそうで怖くて言えない。
伯母さんは熱烈歓迎してくれた。少し早い夕食をご馳走してくれて、私が席を外した時に伯母さんと何やら話していた朔良くん。
どんな話をしたのかは、この時、幾ら尋ねても教えてはくれなかったけれど…………。
辺りが暗くなって来た頃、帰ることになった。夜道へと出て朔良くんの袖口を掴めば、その手をほどかれる。
……でも、拒まれたのではなく…………手を繋がれた。何故か、恋人繋ぎ。少し恥ずかしい……。
でも、このまま時間が止まればいいのに……なんてことを願ってしまった。
最近、緊張感の中の毎日だったからだろうか?朔良くんとの時間が、大切で穏やかなものだった。
「……大丈夫か?」
「えっ?」
「……色々キツイんだろ?」
私は朔良くんの言葉に素直に頷く。
「宗からも聞いたけど、あんたに執着してんのがハッキリ見えるって……。このままこの状況が続けば…………あんたは丸め込まれる。もう……今のままでは逃げ切れないこと、分かってんだろ?」
朔良くんの話が、胸に重くのし掛かった。逃げ切れない…………このままでは。でも、私は丸め込まれたくない……。
「……なぁ?」
「うん?」
「俺を選べよ……」
朔良くんの言葉の意味を考えつつ……私は、朔良くんを見上げた。
「朔良くんを……選ぶって?」
「……俺は、あんたのことが好きだ。だから、俺を選べよ…………」
真っ直ぐに見詰められ、私は…………目を見開いた。