第1章 FIRST AND START
講義が始まる10分前。俺は、教室の中を見渡した。あいつは直ぐに見付かったが、あいつに話し掛けているあの男らも居た。
「!」
俺は、あいつの名を呼んだ。振り返ったあいつは、直ぐに俺へと駆け寄ってきた。
「早かったね、朔良くん」
「あぁ、道が空いてたからな。な、ノート見せて?」
空いた席に座り、あいつに寄り掛かる様にノートを覗き込む。少し離れた場所で、此方を射るような視線を向けている二人。
「……何か、いい匂いする。香水変えた?」
「うん。昨日、玲衣と新作が出たからって買いに行ったの」
「ん…………あんたに合ってる。俺……この香り好きかも……」
そう言うと、あいつは嬉しそうな顔をする。
「ねぇ、朔良くん……お仕事、まだまだ忙しい?」
「まぁ……夏フェス前だからな。あんたも来るだろ?」
「うん。玲衣と一緒に行く。楽しみにしてるからね」
屈託ない笑顔のあいつが可愛くて、あいつの頭を撫でる。あいつは嫌がることなく、俺に撫でられている。
所々から、ヒソヒソと話す周りの奴等。多分、噂を信じている奴等が、俺とこいつが一緒にいるのを訝しく思っているのだろう。
「あ、伯母さんには連絡しておいたからね。楽しみに待ってるって」
あいつの表情は明るくて、まだ何か起こる前で良かったと思えた。でも、もう猶予はないだろう。
「さ、朔良くん…………」
「ん?」
「擽ったい……」
無意識にあいつの頬を撫でていて、でも、あいつは全然嫌がっている素振りなんてなくて…………うん、可愛い……。
「触り心地いいから、ついな……」
「もう……」
そんなことを言いながらも、少しも怒っていない。端から見れば、ただイチャイチャしている様に見えるだろう。
講義中も、適度?にあいつを弄っては……楽しい時間を過ごした。講義が終わり席を立てば、あいつに手を差し出した。
俺の手を躊躇いなく掴んでは、立ち上がるあいつ。俺はそのままあいつの手を引いては教室を出た。きっと今頃、教室の中は騒がしくなっているだろう。
知ったことではないがな……。
今日は、あいつに告ることを決めた……。伯母さんの店に行った後に…………。