第1章 FIRST AND START
部屋の中は、ペンを走らせる音とページをめくる音のみ。あいつは今は俺の隣で、資料に目を通している。
嫌…………いた、だ。
いきなり重みを感じ目を向ければ…………寝てた。ペンで頬をつついたが身じろぎひとつしない。熟睡中だ。
「俺のこと、男だって分かってんのか?…………ったく、しょうがないヤツ……」
口元を緩めては、何とか課題を片付けた。
「ハァッ……マジで、こいつ様々だな……」
やりきった課題に達成感を感じつつ、資料やノートを脇へ寄せる。
さっきは、こいつから腕を回してきた。あの恐る恐る感が何とも言えなくて、更に……小さく安堵した様な吐息。
「…………なぁ、俺のこと好きだよな?」
でも、返事はない……。
「…………悪い。先に謝っとく…………」
俺はあいつの顎を持ち上げては、唇に触れるだけのキスをした。キスをしてから、頬を一撫でする。
抱き上げてはベッドに寝かせ、俺も隣に横になった。腕の中で眠るあいつは可愛くて…………つい、弄りたくなるが我慢しておく。
それから暫く、仕事が多忙になった。夏のフェスに向けての新曲や、テレビ出演などであいつに会うことがままならない。
「朔良…………もう少し愛想良くしろとは言わないけど、その仏頂面どうにかならないか?」
「朔良ちゃん…………あの子とは会ってないの?って、私も一度見掛けたくらいだけど…………あの委員長のことは聞いた?」
宗が、あの男の話をしてきた。
「何かあったのか?」
「朔良ちゃんが心配するだろうから黙ってたけど…………物凄くあの子に入れ上げてるって。端から見て、付き合っているんじゃないかって言っている人もいるくらいなの」
あいつ……謝るって言ってたな。あのまま無視しとけば、関わって来ることは無くなっていたかもしれない。
「芹、いつ落ち着く?」
「う~ん…………来週末くらいか。フェスの宣伝回りもあるしな……」
俺は、盛大に溜め息をついた。
この日も帰宅したのは、夜10時を回った頃。真っ暗な家に自分で明かりをつける。直ぐにシャワーを浴び、静かな部屋で煙草を吹かした。
「……ハァッ……」
会いたい…………
会いたい………………
あいつに会いたい…………