第1章 FIRST AND START
朔良くんに催促されては、味見をしてもらった。自分で言い出しておいて、恥ずかしくて仕方無い。
まさか、食べさせてなんて言われるとは思ってもみなかったから……。それでも、朔良くんが美味しそうに食べてくれたのは嬉しかった。
「どうかしたか?俺の顔、じっと見て……」
「う、ううん。何でもない。ただ、美味しそうに食べてくれたのが嬉しかっただけ……」
朔良くん、今日も綺麗に完食。やっぱり嬉しいって思う。洗い物をしている間、資料を見ながら課題をやっている朔良くん。
一生懸命にやっている朔良くんに、つい手助けしたいなと思ってしまう。
「どう?」
「あぁ、資料が役立ってる。でも、分からないところがある。ここ……どう解釈すればいい?」
「えっと……あ、ここはね?」
朔良くんの隣に並んでは、説明を始めた。どれくらい時間が過ぎただろう?外は真っ暗になっていて、いつの間にか時計は9時を回っていた。
「もうこんな時間?そろそろ帰らなくちゃ……」
「えっ……俺のこと、見捨てて帰んの?後もう少しでメドが付きそうなのに……」
朔良くんの主張に、私はノートを覗き込んだ。
「……凄いね、朔良くん。もうここまで終わらせたんだ……そうだね、もう少しでメド付きそう……うん、分かった。もう少し居るよ」
「サンキュ……」
再び、ノートに視線を戻しては書き続ける朔良くん。
「珈琲おかわりする?」
「あ、サンキュ……」
朔良くんの集中力は凄いなぁなんて思いながら、私はキッチンに立った。お湯を沸かしている間、ボンヤリとさっきのことを思い出していた。
……小林くん、傷付けちゃった。あんなに親切にしてくれているのに、あの時の手…………私には怖いものでしかなかった。
そして…………数年前のことが鮮明に思い出された。元彼に別れを切り出した時の豹変ぶり……。肩を捕まれ無理矢理キスしようとされた……。
怖くて気持ち悪くて…………あの時、心配した友人たちが様子を見に来てくれていなかったら…………心だけじゃなく、体にも深い傷を負っていたかもしれない。
最近は落ち着いてきたと思っていた……。でも、ストーカー被害にあった時、薄れていた恐怖が思い返された。もう3年半も前のことなのに……。