第1章 FIRST AND START
あの男に一言掛けた時、嫉妬の混ざった目を俺に向けた。あいつはそんな男の様子は見ていない。怖いと思っているからだろう。
俺はと言うと…………小さく口元を緩めた。優越感をこめた眼差しを向けてだ。
途中であいつの友人と分かれ、そのままあいつの家へと向かう。部屋で俺が珈琲を飲んでいる間、せっせと荷物を纏めているあいつ。
チラリと見えた冷蔵庫中は、綺麗にタッパーが並べてあった。その内の幾つかを鞄に積めている。
「明日の講義って、2講義目からだったよな?」
「うん。朔良くん、お仕事は?」
「夕方からだ。だから、課題……今日中にやってしまいたいんだが……」
あいつは思案顔。でも、直ぐに頷いた。
「朔良くんは、忙しいものね。出来る限り協力するよ」
「なら、今度は俺が礼をしないといけないな……」
「そ、そんなのは気にしないでいいよ。朔良くんには、いつも助けて貰ってるんだから」
それでも、受けた恩は返さないとって言うと、料理の試食を頼まれた。
荷物を手にしては、俺の家へと向かう。あいつはさっきから、満面の笑顔だ。……可愛くて仕方無いんだけど。
俺の家に着いては、直ぐに課題を始めた。あいつの手助けもあり、何とか捗っている。それに、今日は久しぶりのあいつの手料理。
自分でも浮かれてんのが分かる。料理をしているあいつの背後から覗き込めば……すっげぇ旨そうな匂いがしてきた。余計にテンションが上がる。
「……旨そう」
「ありがとう。もう少しで食べられるからね。朔良くんの口に合うといいんだけど……」
「そんな心配は必要ないだろ。あんたが作るものは、全部旨いし……」
そう言うと、あいつは嬉しそうな笑顔を浮かべた。マジで可愛い…………。
「少し味見する?」
「え、いいの?じゃあ、食べさせて?」
あいつは、目を見張ってプルプルしている。何これ……この羞恥に悶えている顔。
「味見、させてくれるんじゃないの?」
催促すると、一掬いしてはあいつがふぅふぅと息を吹き掛けて冷ましている。なぁ……それは、恥ずかしくねぇの?言わねぇけど……。
おずおずと差し出してくれた料理を口に入れれば、やっぱり旨いとしか言いようがなかった。