第1章 FIRST AND START
私は、その男の人の視線に気付きました。
「お、お詫びに良かったらどうぞ」
「えっ?あ、それは……あんたに悪い」
私は、男の人にお弁当を差し出した。本心から気に入ってくれたのだと、視線が語っている様で私は嬉しかった。
「本当に……いいのか?」
「はい」
男の人は少し思案した様な顔をしたが、やがて私のお弁当を受け取ってくれた。
「あ、すみません……お弁当箱だけは、返して頂きたいのですが」
「そうか……なら、明日の昼にここでいいか?」
「はい。大丈夫です」
男の人は小さく笑っては、何処かへ行ってしまった。そこで、ハタと気付く。
「私たちのお弁当…………」
そう、私たちのお弁当……玲衣と一緒に食べる予定だったものだ。
「、お待たせ~!!」
この後、私は玲衣に平謝りした。玲衣には、伯母さんと同じく大爆笑された……。
二人で学食に行っては、日替りランチを食べる。
「でもさ……切っ掛けはどうであれ、その人が気に入ったのは分かるなぁ。の手料理、絶品だもん」
「煽てても何も出ないよ。それに、私は必要に迫られたから料理を覚えただけだから」
両親はイギリス在住。私が大学に入学した2年前に会ったきりだ。転勤が決まった父に、躊躇うこと無く付いていった母。
今でも、両親はラブラブだ。娘の私ですら羨ましくなるくらい。4年前に付き合った人は居たけれど、浮気者だったので、直ぐに別れる結果となった。
あんな風に想ってくれる人が現れたら素敵だとは思うけれど……どうも、トラウマからか踏み出せないでいる。
「……で、聞いてる?」
「えっ?」
「あのね?今週末、ライブ行かない?」
私は、キョトンとして玲衣を見た。
「私が好きなバンドが来るの。お願い!!」
今日のお弁当のこともあり、私は話を受けることにした。以前、1度行ったけれど、よく分からないまま帰ってきたライブ。
今回は、お弁当の謝罪の意味を兼ねての参加………。