第1章 FIRST AND START
今日のライブは、小さな舞台。順番まで時間があるとのことで、俺は芹に薦められてフリマの出店へと向かった。
暫く、出店を回ったものの気になるものは無く……フラりと、フリマの店の方へ行くことにした。本当に、ただの気紛れだったんだ。
目的もなく、ただ歩いていると……あるブースの隅に置かれていた弁当らしきモノに目が止まった。
本当に、ただの気紛れだった。単純に腹は減っているんだが、出店とは違って……何か、特別で美味しそうに見えたんだ。
店にいた女に声を掛ければ、物凄く驚いた後……少し、複雑な表情をした。だが、洋菓子を買えばサービスすると言ったので、その提案に乗ることにした。
控え室に戻り、購入した弁当を開ける。一際、旨そうに見えた卵焼き。出汁の味がする、シンプルながらも凄く旨い卵焼きだった。
「朔良、何か旨そうなの食ってんだな。出店のか?」
「嫌、フリマの……洋菓子の店で買った」
「洋菓子の店で、弁当売ってんのか?珍しいな」
気紛れで立ち寄った店だったが、本当に優しい味がして何を食べても旨かった。だから、翌日も行ったんだ。
俺は今……唖然としている。そして、昨日のあの女の態度を思い返し、意味を理解したのだ。
「売り物じゃなかったのか……」
また、食べたいと思った味は幻の味となったことに残念な気分になりつつも、個人の弁当を勘違いして買ってしまったことに複雑な気分にもなった。
翌日、大学に行った。学食へと中庭を通っていると、見覚えのある弁当箱に目が止まった。
その横には、フリマで見たあの女がいた。昨日の話がオーバーラップされた。
「あんた……ここの学生だったんだな」
「えっ?あ……いい声のお客さん」
「いい声のお客さんって……」
何だ、その呼名は。思わず小さく笑ってしまう。
「話、聞いた。その……悪かったな」
女は、意味がわからず俺をポカンとしたまま見詰めていた。
「昨日も、店に行ったんだ……」
事情を話せば、急に立ち上がっては頭を下げた。その行為に面食らう俺。
「あ、あんなものをお渡ししてしまってすみません!!」
「あんなものって……俺、旨かったから買いに行ったんだけど」
「あっ!!?えっと……その……重々、すみません。」
「でも……売り物じゃないんだな、やっぱり」