第1章 FIRST AND START
俺が教室を出た時、待ち侘びたかの様に声を掛けてきたのはあの男だった。人の良さそうな表情を浮かべているが、胡散臭い……。
「檜山、ちょっといい?」
「……あぁ」
呼び出されたのは、人気のない校舎裏。定番だな……。
「単刀直入に言うけど、身を引いてくれないか?檜山なら、別にさんじゃなくてもいいだろ。同じ芸能人同士とかの方がいいんじゃないか?」
「……何で、お前にそんな指図をされないといけないんだ。俺が誰と付き合おうが自由だろ」
「お前みたいな浮わついたヤツに、彼女は合わないと言ってるんだ!!」
敵意丸出しの顔に、俺は目を細めた。
「俺は俺の自由にする。誰の指図もうけない。それに、選ぶのはだ」
「いい気になるのも今の内だからな。彼女は俺が貰う。だから、これ以上彼女に近付くな!」
面倒臭いヤツ……。でも、売られた喧嘩は買わないとな?
「取れるものならやってみればいい。じゃあな」
何やら叫んでいたが、いちいち聞いていたらキリがない。でも、あいつにも他の誰にも渡すつもりはない。
ただ、あの男の遣り方が間違った方向に行かなければいいんだがな。あいつを泣かせたりなんかしたら…………潰してやる。
スタジオにいる間、ついイライラしてしまう。
「何かあったのか?」
「あいつのことで、宣戦布告された」
「えっ……朔良相手に?そいつ、根性あるな。でも、朔良ですら手を焼いてんのに、見込みあるように思えないな……」
余計なお世話だ……。でも、いつまでもこのままじゃダメだよな。弱味に付け入ることになろうが…………。
「何か、朔良が悪そうな顔してる……」
「うるさい」
俺だって、我慢の限界なんだよ。どんだけ生殺し状態か……。
キスしたいし、抱きたい……。
でも、無理強いしたら……2度と俺に見向きしなくなる。それは分かってんだ。
……って、結局堂々巡りだな。
「ハァッ…………キスしたい」
「ダメだろ!!」
「酔った勢いで丸め込んだらいけなくないか?」
「だから、それはダメよ?朔良ちゃん……」
「もうさ……既成事実作っちまえばいいんじゃね?」
「ダメだろ!!相手を確実に泣かせる結果になるだろ」
何だよ…………俺が泣きたい