第1章 FIRST AND START
メインはフリマ会場。その一角に、舞台があった。友人の玲衣はお目当てのバンドが出るとのことで、さっきから興奮中だ。
フリマには、客としてではなく出品側。親戚の手伝いで、フリマの店子として参加している。
売り物は、ハーブを使った洋菓子。そう……売り物は洋菓子なんです。今、私は途方に暮れています。たまたま、伯母さんが席を外していた時のことでした。
一人の男の人が、店の前で立ち止まりました。
「それ……幾ら?」
素敵な声でした。でも、男の人の視線の先にあったのは売り物ではなく……私が作ったお弁当だったんです。
蓋がスケルトンの為に中身が丸見えのお弁当が、男の人のお気に召された様でした。
事実を言うことも出来ず、洋菓子を買ってくれたらサービスすることにしました。
「えっ……いいの?洋菓子のお薦めは何?」
「此方のサブレがお薦めです。」
「じゃぁ、それ4つで。」
私は、売り物と自作のお弁当を付けて売ってしまいました。男の人が帰った後、伯母さんが帰ってきたので説明すると大爆笑されました。
無くなったお弁当の代わりに、お昼は伯母さんが出店のものをご馳走してくれました。
「、そろそろ時間だから行ってくるね?また、後で来るから」
「分かった。行ってらっしゃい」
友人を見送り、忙しくなって来た店を何とか乗り切り………最後の商品を伯母さんが売り切って、お店を閉めることになりました。
元々、伯母さんのお店には、常連さんがいたので完売は早かったです。ハーブの洋菓子、女性だけじゃなくてお年寄りにも人気でした。
暫くして、玲衣が戻って来ました。ライブの興奮冷めぬ中、お目当てのバンドの話をしてくれました。
そして、お店を片付けお開きになりました。
二日後の大学での昼休みのことです。玲衣を待ちながら中庭でスマホを触っていると、聞き覚えのある声がしました。
「あんた……ここの学生だったんだな」
「えっ?あ……いい声のお客さん」
「いい声のお客さんって……」
フリマで私のお弁当を持って行った、あの男の人でした。これには、私も驚きです。
「話、聞いた。その……悪かったな」
私は、意味がわからず男の人をポカンとしたまま見詰めていました。
「昨日も、店に行ったんだ……」