第1章 FIRST AND START
ライブ当日。
今日は朝からスタジオで音合わせ。自分でも分かるくらい、テンションが高い。歌を歌うのは楽しい。でも、今日はそれだけじゃない。
千哉には、いつもこうならいいのにと言われたがスルー。そういう千哉もテンションが高い。珍しく機嫌が良さそうだ。
「なぁ、朔良。この前のストーカーの話ってどうなったんだ?」
「ストーカー?」
食い付いてきたのは千哉。
「あぁ、俺の知り合いがストーカー被害に遭ってんだ」
「朔良の知り合い?…………ストーカー被害って、そんなにあるものなのか」
千哉の言葉に、皆の頭に?が浮かぶ。
「なぁ、千哉。そんなにって、どういう意味なんだ?」
「僕の知り合いにも、ストーカー被害に遭ってる人がいる。全く、卑怯な真似をする奴がいるんだな」
千哉は、潔癖なところがあるから、こういう話に憤慨しているのだろう。
「で、打ち上げに女性を連れてくるって話だけど……」
「ちーちゃん、今回だけは大目に見てあげてくれないかしら。朔良ちゃん、本気みたいなのよ」
何で、そんな過剰に驚いた顔をするんだよ……って、今までが今までだからか。
「最近の朔良の変化って、それが原因か。……じゃぁ、取り敢えず様子見だな。Liar-Sの足を引っ張る様な人なら、僕が引き剥がす」
「分かった……」
「朔良が素直…………」
余計なお世話だ。自覚あるし…………。
「ほら、そろそろ時間だ。ライブ会場に行くぞ」
芹の呼び掛けで、俺たちはライブ会場に向かった。大々的には知らされていないLiar-Sの出演だったが、それでもライブ会場前にはクルー(=ファン)らがいた。
黄色い声援の中、俺は少し離れた場所であいつが此方を見ていることに気付いた。
あいつの表情を見て、違和感を感じる。そして、先日のことを思い出した。
「…………何って顔してんだよ」
まさか、同じ言葉を今ここで呟くことになるとは思わなかった。
ライブ中、俺は直ぐにあいつを見付けた。さっきとは違う、驚いた顔と…………高揚した表情。
少しは、夢中にさせられた様だ。
なぁ…………もっと、俺に夢中になってくれ。俺は、あんたに向けて歌うから……。