第1章 FIRST AND START
あいつが俺を追ってきたことに驚いた。俺が居たこと、気付いていた様だ。
男と話していたあいつは楽しそうに見えて、苛立ちを隠せなかった。あいつは、あの男の気持ちには気付いてなんかいない。
受け取っていたのも、あいつの私物だって分かったし……直ぐに俺を追ってきたから、あの男から誘われる切っ掛けを無くした様で少しは気分が晴れる。
「……店か。なら、行くときは付き合えよ」
あいつの伯母さんからの店への誘いだ。俺が誘えば、屈託なく笑っては二つ返事した。
「うん。あ、それと……この前はありがとう」
「別にいい。あ、少しじっとしてろ」
俺はこれ見よがしに、あいつの柔らかい髪に触れた。理由は分からないけど、大人しくしているあいつに口元が緩む。
「何か付いてた?」
「ん、じっとして……」
ただ、俺はあいつの髪に触れただけ。さっきから、こっちを見ている男に見せ付ける様に……。
俺に向けらる嫉妬の眼差し。さっき、俺があいつに向けていたものと同じもの。立場が変わっただけ……。
「あ、明日……打ち上げん時、付き合わないか?」
「えっ?打ち上げって……」
「心配しなくても、メンバーのみの打ち上げだ。ライブ終わったら、待ってて。友達も連れてきていい」
あいつは少し考えては、素直に頷いた。
「明日のライブ、楽しみにしてろ。盛り上げてやるから。な?」
「うん。朔良くんの生歌、楽しみにしてるよ」
……マジで可愛い。あいつがこうして、笑顔で俺を見詰めている。ずっと、俺だけを見ていればいいのに……。
「次の講義は?」
会話をして、同じ講義を取っていたことが分かった。あいつと共に、教室へと向かう。
やっぱり神様……俺に味方してくれてる?まぁ、教室では注目を浴びることになったが、俺には興味のないこと。
あいつにノートを見せてもらいながら、これ以上あいつに虫が付かない様に牽制しておくか。
質問すれば、丁寧に説明してくれるあいつ。いつだって一生懸命で…………。
穏やかな時間だった……講義を受けるあいつは、真剣で…………。
この視線が、俺にだけ向けられればなんて思ってしまう。嫌…………思うだけじゃダメだ。