第1章 FIRST AND START
今日は金曜日。結局、あの雨の日から朔良くんに会っていない。
この数日間、思い出させられた感情に戸惑っていた私。家族と離れ一人となった2年前……寂しさから、私は一人が怖くて仕方無かった。
耐えきれない時はいつだって、伯母さんの家で過ごさせて貰っていた。でも、結局は気持ちが晴れるなんてなくて…………。
何時からだろう?気持ちに折り合いがついたのは?
「……1年前だっけ」
寂しさを埋めるように、翻訳や料理に没頭したのは。その時だけは、何も考えずにいられたから…………。
朔良くんのことは、玲衣から聞いた。両親とは死別していて、年の離れたお姉さんは嫁いでいることを。
そして今日……私の頭の中が朔良くんでいっぱいになっていた。
「あ、さん!」
突然声を掛けてきたのは、クラスメイトである男の人。クラス委員をやっている人だ。
「はい?」
「これ、さんのモノじゃない?」
手の平には、見覚えのあるヘアピンがあった。
「あ、無くしたと思ってたの。ありがとう!」
「いいよ。それよりさ……」
一瞬だった……視界の片隅で、朔良くんの姿を捉えたのは。確かに、朔良くんは此方を見ていた。
でも、直ぐに身を翻して立ち去っていく。無意識だった……私は、朔良くんを追い掛けていた。
課題の多さや、伯母さんのお店が繁忙だった数日間。でも、いつも朔良くんのことが頭の片隅にあった。
「朔良くん!」
私が呼び止めれば、驚いた顔をしては振り返った。でも、朔良くんの表情は……直ぐに、変わった。
「……何?」
「あ、す、姿が見えたから……」
「……あいつ、いいのか?待ってんじゃねぇの?」
朔良くんの視線の先には、委員長がいた。
「何か、受け取ってただろ」
私は、ヘアピンを見せては理由を話した。
「……それだけ?」
「えっ?うん」
「誘われたりしなかった?」
何か言いたそうだったけど、私……朔良くん追い掛けちゃったし。そのままを話せば、朔良くんの表情は少しだけ明るくなった。
「最近、忙しかった?」
「うん。鬼の様な課題やら、伯母さんのお店の手伝いとかあったの。そうだ、伯母さんがお店に遊びに来てねって」