第1章 FIRST AND START
あいつの体温を感じては、余計に寒さを感じる様になった。確かに、温かいと感じるのに……。
さっきの言葉は、自問自答の様なものだ。数ヵ月前、芹の家に入り浸っていたのを思い出した。
Liar-Sとしての山は越えた…………でも、俺は俺のままだ。ずっと、寂しさが晴れない。
最近、余計に焦燥感から抜け出せないのはどうしてだろう。こうして今、こいつを抱き締めている今だけは違うのに…………。
雨音を聞きながら、俺は目を閉じた。
こんなに傍に居るのに、誰よりも遠い気がする。
この日の夜、雨は一晩中降り続いた。停電はとっくの間に解消されている。でも、あいつは…………帰るとは言わなかった。
直ぐに、今、直ぐに俺を好きになればいいのに。そんな非現実的なことを考えるのは、雨音のせいかもしれない。
翌朝、すっかり辺りは明るくなっていて……俺に寄り掛かったまま眠るあいつがいた。
こんな俺には、眩しすぎる寝顔だ。でも、今だけは俺だけのもの。柔らかい髪を撫でては、その髪にキスした。
「……ん……朝?」
「……あぁ」
返事をすれば、あいつは目を開いた。おそるおそる俺の顔を覗き込んできた。
「ご、ごめんね…………つい、寝ちゃって……」
「そんなに俺の腕の中、居心地良かった?」
あれ……どんな変化があったんだ?何で……顔、赤いのだろ。
「さ、朔良くんの言う通りだったよ……人の体温感じてたら、落ち着くって。…………何か、ズルズル朔良くんに甘やかされて抜け出せなくなってる気がする」
「そうか……」
そうだったな……あいつの家族は外国にいる。俺と似たような思いを持っててもおかしくない。
この後、あの時と同じ……俺は、あいつが帰るのを見送った。
「……寂しい、か」
一人になった静かな部屋。さっきまで温かく感じていたこの両手…………今は、恐ろしく寒さを感じる。
俺はそのまま、再び目を閉じた。