第1章 FIRST AND START
ライブには、友人に誘われていたらしい。俺が歌っているのを目の前で聞いたら……想像しては、余計に楽しみになった。
「ん?……雨?」
いきなり降りだした雨音に、あいつは慌てて帰ろうとした。引き止めたけど、帰る意思は強かった……。
でも、玄関の扉を開ければ思った以上の激しい雨にあいつは茫然。ご丁寧に、雷まで+αされる始末。
神様がいるとしたら……あいつが俺から離れていかないように、細工してくれたのかも?……なんて思ってしまう。
あいつの目前で、俺は扉を閉めた。
「……この中、帰るのは勧められない」
あいつは、何かを葛藤している。でも、一際大きく鳴り響いた稲光りにあいつは俺にしがみついた。
俺は、驚いた。今の稲光りにではなく、あいつから腕の中に飛び込んできたことに……。…………こんなお膳立てされたら、あいつを抱き締めずにはいられないだろ。
……いい匂いする。抱き心地いいし……このまま、離したくないかも?ま、あいつの方は余裕なんてないみたいだけど。
なら……いいよな?少しくらい……こうして抱き合っていたって。柄でもないけど、ライブに向けての練習……気合い入れようなんて思ってしまう。
俺って……案外、単純かも?つい、心の中で笑ってしまう。暫くして、雨は降り続いているけれど、稲光りは収まった様だ。
「……あ、あの…………ごめんなさい」
小さな声が、腕の中から聞こえてきた。わざと、あいつの耳に口を寄せる。
「何か言った?」
いい声……最大限に利用しない手はない。俺の声に、ビクリと体を震わせたあいつ。…………やばい、笑いそう。
「えっと……突然、抱きついて……ごめんなさい。も、もう……大丈夫」
「やせ我慢してる?体……少し震えてる」
「え……そう?」
丸め込まれそうになってる。
「そう……人の体温感じてたら、落ち着くって言うだろ?もう少しこうしていたら、落ち着くんじゃないか?」
あいつの耳元で囁けば、俺の言葉を頭の中で反芻している様だ。もうひと押し?
「あっ…………」
もうひと押ししたのは俺ではなく、いきなり消えた明かり。
「停電か…………」
やっぱり、神様がいるかも?