第1章 FIRST AND START
「朔良のファンって、同じ大学だったんだな。一躍有名人だぜ?その女の子」
「でも、大丈夫なの?」
芹と宗が口々に騒ぐ。
「今頃、俺が芸能人だって知る頃だろうな……だから、ファンじゃねぇんだよ」
俺の言葉に、二人は驚く。
「朔良のこと、本当に知らなかったのか?」
「あぁ。それに、眼中無し……」
更に、驚いた二人。
「あの時の騒がれ様や、俺たちの悩み……何だったんだって思わされた。人の美醜に本当に無頓着なヤツだったからな」
「そりゃあ……手強そうな相手だな」
芹の言う通りだと思っていた。さっきの、あいつのあの表情を見るまでは……。
「朔良ちゃんは、その女の子とどうなりたいの?」
「ん?そんなの、欲しいに決まってんだろ」
「あの朔良がねぇ?じゃあ、愛のキューピッドにならないとな、榛?」
二人は、勝手に盛り上がっている。
「あいつ……ストーカーに狙われてるんだ」
「ストーカー?」
俺は二人に事情を話した。ストーカーのことや、周りのファンらが騒がないように二人にも協力して貰わなければならない。
賽は投げられたんだ。
その日の仕事が終わり、アパートに帰れば玄関先をうろうろしているあいつがいた。全くもって挙動不審だ。
「人ん家の前で何やってんだ?」
「あっ、朔良くん。お、お邪魔してます」
「いつから居たんだよ……ってか、連絡くれれば良かっただろ」
そこで、今気付いたかのような表情。
「上がってけよ」
折角会えたんだから、このまま帰す気なんてねぇけど。しかし、家の前でおろおろしている。
「そうやって家の前でうろうろされる方が、人目を集めるんだけど?いいから早く入れ」
俺の言葉にあいつは意を決した様で、中に入ってきた。そして、部屋の片隅で大人しく座っている。
「それ……何?」
あいつが大事そうに抱えていた紙袋。
「あ、これ……良かったら」
手渡された紙袋の中には、あの時と同じ弁当箱。それに、まだ温かい。
早速、口にすれば……何って言うか、増々こいつを手に入れたくて仕方なくなって…………頭の中が、こいつのことでいっぱいになった。