第1章 FIRST AND START
私は朝から全速力で自宅に帰った。帰って……四つ這いになったまま項垂れていた。
「な、何ってことをしてしまったのだろう……付き合っている人ならまだしも、只の知り合いに…………た、只の……知り合い?」
自分の言葉に、胸がチクりと痛んだ。
「め、迷惑ばかり掛けている気がする……朔良くん……ごめんなさい、それしか言えない」
そこで、鳴り響いたのは電話の着信音。相手は、伯母さんだった。私が無事だと分かると、安心してくれた。それから…………
彼氏、イケメンだから離しちゃダメよって。伯母さん……朔良くんは、私の恩人で……只の知り合いです。
幾ら説明しても、私の言葉を照れ隠しとして受け取られてしまう。
「彼氏か…………」
確かに、彼氏なら甘えたり…………またしても、私は四つ這いになった。
「十分、甘えてしまった気がする……朔良くん、本当にごめんなさい」
更に、鳴り響いたのはLINE。私の頭の全てを占めていた朔良くんだ。内容は……忘れ物?
耳を確認しては、ピアスが片方無いことに気付いた。暫くは忙しい様で、私は落ち着いた時でいいと連絡しておいた。
私だけじゃなく、私の私物までが朔良くんに…………。繋がりを切りたくなかったのかなぁ?
朔良くんの逞しい腕の中は、本当に温かくて守って貰えている様で安心出来た。でも、あれは……只の善意でしかない。
もし、朔良くんに特別な人が出来たら…………。また、胸がチクりと痛んだ。
学校に着いて、空いている席に座る。そして、隣に現れた人に声をかけられて驚いた。
「朔良くん…………」
「あんたも、この講義取ってたのか」
「うん。でも、初めて会うね」
朔良くんは、私から視線を気不味そうに外した。
「面倒だったから…………それより、隣いい?」
「うん」
面倒だったからって…………朔良くん、自由だな。そして、ノートをせがまれ朔良くんに見せた。
それはそうと、周りの人がチラチラとこっちを見ている。やはり、朔良くんがイケメンだから?
私はこの時、何も知らなかった。本当に何も…………。