第1章 FIRST AND START
暫く茫然としていたけれど、仕方無くお風呂を借りることにした。ずぶ濡れだし……。
「くだらないことは、シャワーに流しとけ……」
さっき、朔良くんが言った言葉だ。言葉遣いは乱暴だしぶっきらぼうだけど、とても優しい人。
シャワーを浴びれば、少しはスッキリした。でも、まさか男の人の家でシャワーだなんて……。
脱衣場には、タオルと着替えらしき衣服があった。オズオズと部屋に戻り、シャワーの礼を言う。
「やっぱり、サイズ大きかったか……」
私には、ワンピースに近い朔良くんのシャツ。確かに、服に着られている感が半端ない。
気恥ずかしくしていると、朔良くんも直ぐにシャワーを浴びに行った。一人になって、辺りを見回す。
女っ気のないシンプルな部屋。何故か、音楽雑誌が多数。それに、ギター?があるし。
ベッドに寄り掛かり、ぼんやりとしていた。
「あれ?手…………」
指先が震えていた。さっきまで、何ともなかったのに……。もし、一人で自宅に居たら……私は耐えられただろうか?
もし、朔良くんが居なかったら…………急に怖さが込み上げてきた。今更ながら、私は一人を実感させられたんだ。
「何って顔してんだよ……」
「えっ?あ……き、急に…………怖くなって……」
「……そうか」
朔良くんは、私の隣に腰を下ろした。肩と肩とが触れ合う近距離。ただ、朔良くんは私の手をギュッと握り締めた。
不思議と体の震えが落ち着いてくる。それにしても、無口な人だなと思う。元彼と比べなくても。
でも、それが逆に落ち着かされると言うか……今の私には心地よかった。握り締める朔良くんの手は、やっぱり男の人の手で大きくてゴツゴツしていて温かい。
そんな温かさに、気が緩んだんだと思う。いつの間にか、私は朔良くんに寄り掛かっては意識を無くしていた。
一人暮らしの男の人の部屋で寝てしまうなんて、以前の私なら考えられなかっただろう。
いつか、与えてもらった恩を返したい。そして、たくさんのお礼も言いたい。いつか……。