第1章 FIRST AND START
頭の中で、あのストーカーの姿がぐるぐると回っていた時、いきなり頭を撫でられた。驚いて顔を上げれば、私を見詰める朔良くん。
「人の話、聞いていたか?」
「えっ?あ、ごめんなさい……」
盛大に溜め息を吐く朔良くん。私は、もう一度謝った。
「俺を呼び付けたことは、もういい。家……来るか?」
「えっ?」
「一人で居たいんならそれでもいい。あんたが決めろ」
ぶっきらぼうな口調だけど、私を思っての言葉だと直ぐに気付いた。本心は誰かに傍に居て欲しい。でも、これ以上……迷惑をかけたくない。
「わ、私…………」
一人で大丈夫だと言いたいのに、たった其だけのことなのに……私は言葉に出来ない。
「…………もういい」
「えっ?あ、さ、朔良くん?」
私の手を掴んでは、歩き出した朔良くん。
「シンプルに考えればいい。……今更だろ、全く」
「……一緒に居て欲しい」
「何だ、言えるじゃねぇか」
朔良くんが、急に歩き出した理由に私は気付かなかった。背後から、私たちを見ている視線があったことなど……。
「あ、あんた飯は?」
「えっ?あ、まだです。何か作るなら、買い出ししないと……」
男の人とスーパーで買い物なんて、何か気恥ずかしいものがありました。それでも、頭の中で描く料理の材料をカゴへと収めていきました。
支払いを済ませ、スーパーから出ました。そこで、私は思い出しました。朔良くんに助けられたことを。今もこうして、傍に居てくれる。
自然と安堵した笑顔を浮かべました。
「……そうやって笑っとけ。辛そうな顔してたら、向こうの思うツボだろ」
「朔良くん……本当にありがとう」
手から伝わる温かい感触…………。
「えっ?手…………」
「はっ?今更?」
急に、心拍数が上がった感じがします。でも、朔良くんはどこ吹く風です。
「朔良くん……彼女はいますか?」
「いねぇよ。居てこれやってたら不味いだろ……」
確かに…………でも、傷付く人が居ないことが分かってホッとしました。
私は、元彼の話をしました。朔良くんは何も言わずに聞いてくれました。この時、複雑そうな顔をしていたことには気付きませんでした。