第1章 FIRST AND START
「いい声のお客さんの次は、強面かよ……」
俺の呟いた言葉に、あいつは顔面蒼白。丸でこの世の終わりの様な顔をしている。
「……プッ……何って、顔してんだよ」
俺が手招きすれば、あいつは怖々と近付いてきた。空いた隣に座るように顎をしゃくれば、少し離れて座った。
俺は、隣に座ったこいつの頭をワシャワシャと掻き乱した。驚いてされるがままのこいつ。
「クックッ……ボサボサ。面白い……」
「ひ、酷いよ朔良くん!!」
隣で頬を膨らませては、膨れているこいつに笑ってしまう。
「俺の心を傷付けた、些細な仕返しだろ」
「わ、私だって傷付いたよ!」
何か、面白いヤツ……
そこに鳴り響くスマホの音。俺は目を見張った。何故かと言えば……聞き間違うことなんて絶対にない曲だからだ。
「あんた……その曲」
「えっ?あ、これは友人に設定されて……知らない曲だったけれど、いい曲だから気に入っちゃってそのままにしてるの」
俺の声だと気付いていない。若干、ガッカリ感が否めないが仕方無い。
「……そうか。気に入ったのか」
「うん。ごめんね、電話に出るから」
素直に頷いたこいつ……可愛いんだけど。
隣で会話している所々で、相手の女の声が聞こえてきた。友人らしい会話内容だ。
「……そうなんだ。……ううん、今日は夕方から伯母さんの手伝いがあるから出掛けるのは止めとく。うん、じゃあね」
あいつは電話を切って、俺を見た。
「お昼からの講義が休講になったの。課題があるから帰るね」
「あぁ、帰り道用心しとけよ」
あいつは笑顔で帰って行った。普通なら、これで縁が切れたも同じだろう。
だったら、何の為に連絡先を教えたんだって話になるな……。でも、引き止めても……何を言えばいいのか言葉が浮かばなかった。
「……何やってんだろ、俺」
そもそも、芸能人を抜きにしても、こんな風にアッサリと退かれたことは始めてだ。
「俺のこと……眼中に無しかよ」
お人好しで呑気で……俺のことを知らないヤツ。
「俺……こんなヘタレだったっけ?」
苦笑いしては、学食へと向かった。学食が不味い訳じゃない。でも、俺は……あの味を求めてしまっていた。