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【HQ】陽のあたる場所へ

第13章 長期合宿前編


ふぅ。
部屋の前でひとつ息を吐くと、教室のドアをノックして、そろーっとドアを開ける。

ラッキー。研磨さんしかいない。

「研磨さん。ちょっとだけいいですか」
「うん。入っていいよ」
「すみません。ゲーム途中ですよね」
開けた時と同じようにそろーっとドアを閉めて、大丈夫。と言ってくれた研磨さんの向かいに腰を下ろす。


……。

「…赤葦のこと?」
なかなか話を切り出せない私に研磨さんが問いかける。

ドキッとした私に気づいたのか
「好きなの?」
「…わかりません」
続けて問いかける研磨さんに正直に答える。

「私、初恋の男の子が居たんです。その子が忘れられなかったはずなのに…なんか…なんていうんだろ…重なって見えるようになっちゃって…」
しどろもどろになりながらも思ってる事を伝える。

「…優希はさ、」
俯いていた私の頭上で研磨さんの声が聞こえて顔を上げる。
「優希はその男の子が赤葦だったらいいなって思ってる?」
「…わかりません。でもなんか、近くに居るような気がするんです。その男の子。私の気のせいかもですけど…」

言いながらまた少し俯くと、俯いた先の研磨さんの手が持っていたゲーム機を床に置く。
すると研磨さんは両手を床につき、首を傾けて猫のような大きな目で私の顔を下から覗き込む。
「…俺にすればいいのに」

えっと驚いて顔を上げると、相変わらず無表情…だけど試合中のような本気の目をした研磨さんと目が合う。
「俺は優希のこと好きだよ。でも…だから、優希には幸せになってほしいと思う」
研磨さんはそう言うと、優しく私の頭を撫でながら、その手つきと同じように優しく微笑む。

「無理に考えなくても、今は優希のやりたい事をやればいいんじゃない?」
「やりたい事…バレー…?」
「うん、それでいいと思うよ」

「もしその初恋が運命ってやつなら、ちゃんと会えるんじゃない?」
そう言った研磨さんに、立ち上がってペコッとお辞儀をすると
「ありがとうございました。とりあえず私、バレーしてきます」
と伝えて教室のドアに向かう。

失礼しましたーとドアを閉めようとすると、研磨さんは手を振りながら
「俺の言った事忘れないでね」
本気だから。なんて意地悪な、少し色気を含んだ笑顔で言うもんだから、体育館に向かう廊下は顔が火照りっぱなしだった。
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