第13章 長期合宿前編
「ちょっ、優希って福永さんの言葉分かるの?」
「なんとなくだけど」
驚いてる犬岡くんに答えると、口をあんぐり開けたまま固まってしまった。
そんな犬岡くんを見て福永さんと2人で笑っていると、散々光ちゃんをいじり倒した黒尾さんがこちらのコートに戻ってくる。
「なんだお前ら、楽しそうだな」
「黒尾さんも楽しそうだったじゃないですか。光ちゃんいじめて」
笑いながら言えば
「でも俺は優希と楽しみたいんだけどな」
と私の頭に手を置いた。と思ったら、くしゃくしゃっと撫でられる。
ん…?前と少し撫で方が違う気がする。
ちらっと上目遣いで黒尾さんの顔を見ると、なんだろう…憂いを帯びたような瞳。なんでこの人はこんなに色気があるんだろう。惹き込まれそう。
暫く目が逸らせないでいると、ふいに服の裾が引っ張られる。
振り向くと少し気まずそうな福永さんと目が合った。
「あ、すみません。たしかにそうですね」
「おい、ちょっと待て。今何を理解した?」
黒尾さん驚いてる。
「だから何で分かるのっ?」
お、犬岡くん復活した。
「え、もう時間ないからゲーム再開するなら早くしないと、って」
もうそんな時間か。と、黒尾さんは光ちゃんに声を掛ける。
「おい木兎、そろそろ終わろうぜ」
「えー!全然できてないぞ!」
「早く食堂行かねぇと飯なくなるぞ」
「それは困るっ!」
光ちゃんと話す黒尾さんはいつも通りだ。さっきのは何だったんだろう。私の見間違え?いや…あんな黒尾さんは初めてだ。不覚にもドキッとしてしまった。
「優希!行くぞー」
言いながら黒尾さんは私の肩を抱く。
さっきの色気ある表情見た後だと、なんか緊張するんですけど。
そんな緊張がバレないように、食堂へ向かって足を進めた。
…そんな私達をじっと見ている赤葦さんに気づかずに……。