第13章 長期合宿前編
はい。と研磨さんにジャージを渡されてハテナが浮かぶ。
「前に言ったでしょ。ジャージ貸すって」
ありがとうございます。と受け取れば
「研磨!ずりーぞ!俺が貸すって言っといただろ!」
黒尾さんが気づいて近づいてくる。
「クロのことは無視していいから」
そう言って逃げるように去っていく研磨さんに、研磨め。と悪態をつきながら私の隣に来た黒尾さん。
「ここ虫が多いみたいですね。ジャージ着てよっかな」
研磨さんに借りたジャージを着る私に、
「俺の前では無理しなくていいぞ。なんかあったんだろ、烏野の変人コンビと。それかお前自身のことか?」
そう頭を撫でる黒尾さんの手はすごく優しい。
「黒尾さんは私の事どこまで知ってますか?」
「舞姫だろ。悪い、木兎を問い詰めちまった」
大丈夫です。と、翔陽と飛雄が喧嘩した時の事を簡単に話した。
「もともと膝の手術に来る予定だったんです。それを少し早めた事を皆に黙って東京来ちゃって…」
なんで普通に話せたんだろ。
黒尾さんなら大丈夫って思ったのかな。
時々胡散臭い感じはするけど、基本的には面倒見の良い人だもんね。
「なるほどな、だからチビちゃんが"仲間だ"って言ってたのか」
「そんな事で不安になる私も私ですけどね」
「それはしゃーねぇだろ。それにしてもアイツらが開口一番に謝るとはな。単純ってか単細胞っぽいのに」
「きっと繋心が何か言ったんだと思います」
呆れながらも感心する黒尾さんに言えば、
「随分あのコーチのこと信頼してんのな。黒尾さん嫉妬するぞー」
「ふふ、私が一番辛い時に支えてくれたのが繋心でしたからね。光ちゃんからは逃げちゃったし」
「木兎ざまぁ」
そう言って笑う黒尾さんにつられるように笑うと、なんか気持ち的にもスッキリした気がする。
「ま、なんかあったら言えよ。黒尾センパイを頼りなさい」
今は優希も音駒の一員だしな。と私が着てるジャージを指差した後、頭をポンポンっとして皆の元に戻る。
やっぱり黒尾さんは良い先輩だ。
他校のはずなのに、私の事もちゃんと気にかけてくれる。
さ、私も準備始めなきゃ。
ーsaid黒尾ー
優希の事だから、話を聞いてくれた黒尾さんは良い先輩だ。とか思ってそうだな。
さすがに好きでもない奴の話は聞かないんだけどな、俺。
…この合宿中が勝負かな。
ーsaidendー