第8章 閑話にー伊達工業
病院へは電車に乗らないといけない。それが今、ちょっと苦痛です。
現状は何も問題ないんだけど、明日紹介状を受け取りにもう一度行かなくてはいけない。それは苦痛じゃない。
苦痛なのは、まさに今。
部活に入ってから病院に行くのをサボっていたから、いろいろ調べないといけない事があったらしくて、結果、膝をテーピングでガチガチに固定されているから上手く歩けない。
(松葉杖は邪魔だからって断っちゃったもんなぁ。それにしても、何でこんなに混んでるの!)
そう。上手く歩けない上に、電車が混んでる。
あ、席が空いてる。目の前に立ってる人、座らないなら私が座ってもいいかな。
いつもはそんな事思わないけど、今日は別。膝が辛いもん。
すいません、座ってもいいですか?と聞けば立ってる人は、どうぞどうぞ。と道を作ってくれたのでお言葉に甘えることにした。
ありがとうございます。と言って座れば、隣には強面さん。
だから誰も座らなかったのかな。眉毛無いし。
ん?高校の制服にエナメルバック。そこには"伊達工業"の文字。そして眉無しの強面。見覚えがあるぞ。
チラッと横を見れば、やっぱりあのミドルブロッカーさんだ。
あ。という私の声に気づいたのか、強面さんも私の方を見る。
「あ、すいません。伊達工のバレー部の方ですよね?」
と聞けば、彼は頷いてくれた。
「私烏野高校で男子バレー部のマネージャーやってます」
彼はハテナを浮かべたので、
「ああ、IH予選の時はずっと2階席にいたので」
と言えば納得してくれたみたい。
それから彼が電車を降りるまで話していた。
話していたと言っても、私が話して彼が頷いたり首を傾げたりして、だけどね。
彼は口下手なのだろうか。それとも無口なだけなのか。
でも言いたい事はなんとなーく分かるから問題はなかった。
彼が降りる時、ペコっとお辞儀をしたので、
「お話できて楽しかったです。また大会以外でも会えるといいですね」
と言えば彼も頷いてくれた。少し嬉しそうに見えたのは私の勝手な希望かな?
他校の人と仲良くなれるのは嬉しいな、と気分が良くなった所で気づいた。
(名前聞くの忘れてた!…ま、帰ったら繋心に聞けばいっか)
ふぅ、と息を吐いて彼が座っていた所をふと見ると…生徒手帳?彼のかな?
失礼します、と広げてみれば彼の写真と"青根高伸"という名前。
思いがけず名前を知れた。