第1章 S
電話を切られた丁度その時だった。
ガチャ…
家の扉が開いたのが分かった。
私はお母さんと志季さんだと思って玄関に向かった。
「もう遅い!二人とも何してたの!?って…。」
私の目の前にいたのは、志季さんただ一人だけだった。
「お母さんは?」
「友達の家に泊まるそうだ。だから早く帰らなきゃいけないと言って、そのまま帰ってしまった。」
「…そうなんだ。志季さんは、なんでそのまま帰らずに、またここに帰ってきたの?」
「お前に悪いことをしてしまったと思ってな…。あの時、抱きしめたりしなかったら、誤解をうまずに済んだのにって後悔してたんだ。ってゆうか、俺の名前…」
そうだ。そもそも服に埃なんかついていなかったらこんなことにならなかったのだ。泣きそうになることもなかったし、抱き合うこともなかった。私が悪い。
そういう申し訳なさとは裏腹に、違う考えも浮かんだ。
志季さんは志季さんだ。私と何にも関係がない。
私と抱き合って後悔している。私なんかと抱き合って…後悔させてしまっている。
志季さんは、私のことなんて、これっぽっちも想ってない。
“ほら。期待なんかしちゃ駄目じゃんか。”
はじめから期待なんてしてないつもりなのに…この気持ちはなんだろうか。
心にポッカリ穴が開いたような気がした。
「お前、また寂しそうな顔してるぞ。」
「…志季さん。本当に申し訳なかったです。私が悪いんです。服に埃なんかついていたから…。だから私が悪いです。志季さんは悪くないです。だから…その…、もう帰ってください。」
“帰って。だなんて、志季さんが悪いみたいじゃない”
そう言って悪い気はしたが、後悔は無かった。
私は泣きそうになっていたから、とにかく今は帰ってほしかったのだ。これ以上、変な姿は見せたくなかった。
その時だった。
「朝も言ったが、そんな状態のお前を一人には出来ない。」
そう言って朝と同じように私を抱きしめた。
「私と抱き合って、良いことなんか無いですよ。きっとまた朝みたいに、何かが起こるはずです。」
「そういうことなら、何かが起こらないようにさせてやろうか?」
「ふぇっ?」
どういうことか、意味は分からなかったが、スグに疑問は消えた。