第2章 O
私は今日も仕事だ。
「行ってきます」
私はそう言って家を飛び出した。
会社に着くと、鷹先さんの姿は無かった。
昨日の事件のこともあって、解雇されたそうだ。
昨日は無断欠勤をした私への皆からの冷たい視線が怖かったが、今日は一変し、皆揃って心配そうな顔で見てくる。
昨日の事件のおかげで無断欠勤の件は一旦は忘れて貰えそうだ。
「ねぇ。」
そう声をかけたのは同僚の未村さんだった。
「あ、未村さん。何ですか?」
「あんたって、彼氏いんの?」
「え!?」
「いやぁ、昨日の事件のことあったからさ…。」
「えっと…今は…。」
「ふぅん。気になってる人は居る感じなんだぁ。」
「え!?」
的中され困惑状態だ。
そんな未村さんは開けたばかりのミルクティに口を付ける。
私はそれに思わず見とれてしまっていた。
「…私も、1回そういうことあったのよ。」
「未村さんも…?」
「そうそう。それも、鷹先ってやつにね。」
「…鷹先さんってやっぱり変な人だったんですね。」
ますます鷹先さんの事が嫌な人に思えてきた。
「そうよ。私は会社帰りだったわ。」
「え?」
未村さんは語りだした。
「うん。会社帰りに乗った車両にたまたま鷹先が居てね。軽く挨拶したら、向こうがその気になっちゃって。私は電車降りたら家に帰るつもりだったんだけど、見事にホテルに連れられてね。」
「ホ、ホテルですか!?」
「声デカいわよ!」
私はつい大声になってしまった。
「ごめんなさい!」
未村さんはペットボトルの蓋の縁を指で1周なぞってから溜息をついて、また語りだした。
「それでホテルから出てきた所を彼氏に見られちゃったわけ。」
「……それは。残念ですね」
「彼氏と口論になった挙句、結果別れたわ。それを鷹先に愚痴ったら、鷹先は嘲笑ってた。その時はほんと頭に来た。」
私は廊下の一番隅の汚れている所に目を落とす。そこには埃が溜まっていた。
「……まぁ仕方ないわよね。着いて行った私も私。でも私は彼奴を一生許せない。だから、解雇されたって聞いて嬉しかった。」
未村さんは私に笑顔を見せた。そして短く、
「ありがとね。」
と呟いた。
「はい。」
私は未村さんの笑顔に似合う顔は見せられなかったが、それなりの表情をした。
そしてまた埃に目をやる。
何故だか、嫌な予感がした。