第1章 S
単なる埃だった。
“なんでこんな所にほこりなんかつくのよっ”
志季さんと密着出来た嬉しさとは裏腹に、汚い女だと思われてないか不安だった。
「す、すみません!ほこりなんか、取ってもらっちゃって…。」
“ 最悪だ”
「あー、昨日掃除したのに何でかなぁ。あははっ、もおぉ。ほこり、やだなぁ…」
自分でも何言ってるのか分からない。けど、喋らないと気が済まなくて…。
恥ずかしさを紛らすために、私はとことん喋った。
“あーもう泣きそ。”
「私、結構潔癖な方かと思ってたんだけど、実は汚い女かもしれな…」
その時、私の口を閉ざすかのように、ギュッと抱き締められた。
“志季さん!?”
「大丈夫か?そんなに喋ってしんどいだろ!別に汚いとか、そんなこと1ミリたりとも思ってない。よくある一般的なことだ。」
そう言いながら、私の身体を優しく受け止めてくれた。そして私を慰めてくれてるかのように、そっと髪を撫でてくれた。
こんなに紳士的で優しいオトコの人、何処にいるだろうか。
私は、この身体を放したくなかった。放してしまったら、もう二度と、この身体には私の身体を預けられないだろう。そう思った。
「…優しいんですね。私、そういう人、好きです。」
またもや何を言っているのか分からない自分が恥ずかしくなった。
「優しくない。焦って、今にでも泣き出しそうな人が目の前にいたら、放っておけないだろ。」
本当に、志季さんは優しくてあたたかい。
“ああ。大好き!”
ギュッと抱き合ったままの二人。別に恋人関係でも何でもない。傍から見たら、私達は恋人同士に見えるのだろうか…。
落としてしまった回覧板が、二人をそっと見守っているように見えた。
“もう、いっそこのまま…!”
その時だった。
「あらー。唯愛!もう恋人出来ちゃったの!」
そこに現れたのは紛れもない…
私の母だった。