第1章 S
「え、えぇ!?志季さん!?」
私は驚いてしまった。
偶然とはいえ、熱を出してる志季さんがこんな街中にいるとは思いもしなかった。
「何をそんな驚いているんだ?」
志季さんは真顔でこっちをジーッと見てくる。
「熱出してるのに、安静にしておかないと駄目じゃないですか!」
私は強く言い放った。
「…大丈夫だ。問題ない。」
「問題ないって言っても…」
そう言った瞬間、志季さんは私の耳元まで顔を寄せてこう囁いた。
「今は病院帰りだ。熱も大分下がった。心配かけてすまない。」
「…志季さんっ!」
「何をそんなに照れているんだ?」
「志季さんのせいじゃないですか!きゅっ、急に!」
すると今度は手を強く握ってきた。
「急に…なんだ?悪いか?」
「志季さんっ!!」
私はドキドキで押しつぶされそうだった。
志季さんの体温が手から伝わってくる。男の人を感じさせられる尊い手。
そんな尊い手を私なんかが握って良いのだろうか…。
事が起こったのは、そんな時だった。
「なんだそれ。」
隣にいた氷上が呆れたのか、怒っているのか、こわい顔をしていた。
「なんだお前。」
志季さんがそう言った。
「…フッ。お前なぁ。」
氷上の顔色が怒りへと変わったのが分かった。
「大概にしとけよっ!!」
そう言いながら志季さんの胸ぐらを掴む。
「やめて氷上っ!」
私が間に入る。
「お前、こいつとそういう関係なのかよっ!どうなんだ!?」
「今はまだ…わからない。」
「は?なんなんだそれ!」
「…なんでそんな怒ってるの?」
「…お前にはちゃんとした男と付き合ってほしいんだよ!さっきみたいな上司がこの世には存在するんだ!お前に危ない目にはあってほしくない!…なのに、こんなヘンな奴。」
「…志季さんは、変じゃないよ。確かに少し変り者だけど、でも…」
返す言葉がなかった。
志季さんは……変な人だ。
それに危ない人だ。急に襲われたのだから…。
「でも?」
氷上にさらに問いかけられる。
「俺のことが好きなんだよな?」
志季さんが真顔で私に聞く。
流石に氷上もこの一言には唖然としていた。
もちろん、私も。
「なぁ、こいつ、絶対ヘンだろ。」
「だねー。」
私は軽く流した。
…いや、今はそうじゃない!
自分の気持ちを氷上に伝えなきゃ!
「ううん!私は志季さんが大好き!!」