第1章 S
私は非常に気まずかった。
それはもう足取りは重く…。
「唯愛ちゃん。おはよう。」
「えっ。あっ!はいっ!おはようございます!」
私に挨拶をしてきたのは会社の上司、鷹先さんだった。
「こほんっ」
鷹先さんは咳払いをした。
私はとても焦った。
「ねー、唯愛ちゃん。昨日はどうして会社に来なかったの?それも無断欠勤で。」
「えぇっと。」
芸能人である篁志季と出会って、夜な夜な…だなんて、事実だけど言えない。
「言えないことなのかな?」
私は耳にしたことがある。
鷹先さんは優秀で真面目だからこそ、怖い一面があると。
「い、いえ。そんなことでは…」
“諸そんなことだよっ!(泣)”
大ピンチである。
「…」
鷹先さんは難しそうな顔をした。
“やっぱり怒ってる!”
私は恐る恐る聞いた。
「…あの。怒ってます?」
「うーん。そうだねぇ。まだ唯愛ちゃんは新人だから良いもの…。これから先、重要人物になってくると、個人問題じゃなくて会社の問題になっちゃうからねぇ。無断欠勤はすごく最低行為だと僕は考えてるよ。」
“やっぱり怒ってたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ”
「そうですよね。本当に申し訳ございませんでした!」
「許してあげたいけど…来れなかった理由も言えない様じゃ…ねぇ。」
「ホント、すみません!」
「社長には僕から謝っといたから。後で唯愛ちゃんも謝っておくように。」
「はい。申し訳ないです。」
私は、どうしようもない馬鹿だと思った。
どんな状況に置かれていても、連絡はするべきだと思った。
落胆してしまう。
それに私は志季さんと出会えたという嬉しさで、目の前のことを考えられなかった。
最低な自分を殴ってやりたい。
「まぁ、そんな落ち込まないでよ。」
「へ?」
「僕も新人の頃は失敗をよくしたものさ。」
「そうなんですか?」
ハイスペックな鷹先さんが失敗するなんて考えられなかった。
「うん。でも、そこで落ち込んでいたら前には進めない。出来る仕事も出来なくなっちゃうよ?」
「はい。そうですよね。」
私は頑張って作り笑いしてみせた。
「…僕は上司。後輩ちゃんの悩みを聞いてあげるのも僕の役目。一体何があったのか、僕だけに話してくれない?」
鷹先さんは優しい顔をしていた。
「はい。」