愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第7章 愛の唄 Ⅵ
「っぐ……!」
しかし、天草自身も背後からの刃を貰ってしまったようだ。しかも、日本刀は相手に深く刺さり込み過ぎたため、すぐには抜けない。天草はすぐに懐から短刀を取り出したが、どう見たって30センチほどの刃物だった。刀や鉄砲を相手にするには、明らかに役不足だ。さらに、天草からは真新しい血が流れ落ち、床に小さな水たまりを作っている。しかし、天草はそんなことはお構いなしとばかりに、その短刀を敵の背中へと突き立てた。
「この野郎……!」
鉄砲を構えた敵が、此方へ狙いを定めている。それと同時に、残る2人の敵もバラバラに襲い掛かって来る。流石に、短刀でリーチのある武器の相手は出来ない。相手の攻撃を受けることすらできずに、天草は脇腹と背中に、それぞれ太刀を浴びせられることとなった。
「……ぁ、っぅ……!?」
天草の視界がぐらりと揺れ、霞む。それでも、天草は膝を折ることなく、戦い続ける。
「ぁ、あああぁぁぁあああぁぁああ!!」
天草が、咆哮する。服は既にボロボロで、血に濡れていない箇所など見当たらないほどだった。
どうして、彼はこんなにもボロボロになっても、戦い続けるのか。彼はただ、自分を信じてついてきてくれた皆を護りたいと言った。そして私は今、戦い続ける彼を感じている。掠れる声。荒い呼吸。私の精神は、締め付けられて限界だった。私はただ、見ていることしかできない。手を出せないどころか、声すらも出せない。
私が考えている間にも、戦いは続いている。
「――――俺を、……、舐めるな……ッ!」
天草は自身の左腕で相手の刃を受けた。それも、自分から刃を掴みかかった。恐らく、自分の左手を犠牲にして、イチかバチかの賭けに出たのだ。相手が動けなくなったところを、天草は逃すことなく仕留めた。残りは2人。しかし、相手はもはや戦意を喪失しかけていた。鉄砲を構えた兵士の狙いはついぞ定まらず、天草にその弾が当たることは無かった。こうして、満身創痍になりながらも、天草は辛くもこの場を切り抜けた。