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愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】

第7章 愛の唄 Ⅵ





 後には、黒焦げになった男の子の死体だけが残った。最悪の見世物が終わり、民衆は散り散りになる中で、母親だけが黒焦げになった亡骸へと手を伸ばした。しかし、手を伸ばしただけで、母親は座り込んだままで、動けない。その母親の後ろへと、近づく。

「せめて、祈らせていただいても、よろしいでしょうか?」
 穏やかな声に、悲しみが滲んでいる。
「は……。貴方様は……。」
 母親は、泣き濡れた顔を、此方へと向けた。
「四郎、様……?」
 母親の顔は、目は焼けただれた後のように腫れ、しかしその顔面からは、一切の血色が失われていた。土下座をしたときに付いたのであろう泥が、前髪にべったりとこびりついており、そこから見える額には、役人に踏まれた際にできた傷が見えた。
「はい。私には、こんなことしかできませんが……。せめて、息子さんの魂が安らかにいられるよう、お祈りをしてもよろしいでしょうか?」
 地面には、2つの黒い染み。それが、天草四郎の涙だと気付くのに、さほど時間はかからなかった。
 焼け焦げた死体へと手を伸ばし、抱きしめる。もう、人のカタチすら成してはいないそれを、天草四郎は、迷いなく抱きしめた。ふいに、私の胸へ去来したのは、激しい怒りと、無念。そして、無力感だった。これはきっと、天草四郎がその時に抱いた、強い感情なのだろう。それが、痛いほどに伝わってくる。

「四郎様……。――――どうか、このような世の中をお救いください……。」

 女性は、祈るように呟いた。それに対して、天草四郎はどう返答したのだろうか? 夢は、そこで途絶えた。




 私は、夢の中なのに、ふらふらとした感覚を覚えた。そのまま、意識がブラックアウトする。






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