愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第7章 愛の唄 Ⅵ
「―――――ぁぁぁぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!! だずげで、があ゛ぢゃあ゛ああぁぁあ゛あ゛ん!!!!!!!!!」
まだ幼いであろう子どもの声。男児だろうか?
何かに突き飛ばされたように、天草は地面を駆ける。向かう先は分からないが、恐らく声が聞こえた方向だろう。
「ぃ、いちたああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
天草が走っている最中にも、女性の悲鳴が聞こえて、男児の叫び声に重なる。
天草が、呼吸を乱しながら、走り、やがて止まる。そして、辿りついた先で見たものは、筆舌に尽くしがたい光景だった。天草は、どこか物陰にその身を隠しているようだった。しかし、多少距離が離れていても、ハッキリと見える。恐らくは10歳にも満たないであろう、痩せた男児が、成人男性数名に捕らえられている。成人男性は、役人か何かだろうか。揃いの羽織を身に着けている。男の子の腰には縄が巻き付けられており、まるでその男の子が何かの罪でも犯したかのような雰囲気だった。
「この餓鬼の家は、かねてより、年貢を滞納している。よって、刑罰に処す。」
「待ってください! ウチは、1年前に夫を病気で亡くして、生活が苦しいのです。今、頑張って年貢を納められるよう、私も寝る間も惜しんで働いておるのです! ですからどうか、その子だけは、お見逃しください!! たったひとつの、夫の忘れ形見なのです!!」
この男の子の母親なのであろう女性は、額を地面に擦りつけて土下座をしながら、役人に向かって必死に叫んでいる。
「黙れ! これは、松倉様の御決定だぞ! それに逆らうつもりか!! 莫迦め!!」
「う゛っ!!」
役人の1人が、女性の頭を踏みつけた。松倉? 誰だろう。ただ、“松倉様の御決定”、なんて言っているのだから、きっとこの土地に深くかかわる権力者なのは間違いない。
「ハハハハハ! 払うものを払ってからであれば、多少の聞く耳も持ってやらんでもないがな! 連れていけ!!」
「ははぁっ!」
男の子は、そのまま縄を引かれ、連れていかれる。
「皆の衆、寄るが良い! これより我ら松倉様の忠臣が、年貢未納の石潰(ごくつぶ)し共に誅罰を下さん!」