愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第7章 愛の唄 Ⅵ
「ああ! 四郎様! ありがとうございます、ありがとうございます! ですが、私にはお返しできるものも、なにもなくて、心苦しいばかりです……。」
そう言って、女性は顔を曇らせた。
「いいえ。そんなことはお気になさらず。母子ともに、健やかであることこそを、私は祈りましょう。」
「ありがとうございます、四郎様。それでは今日も、良い1日をお過ごしくださいませ。」
確か天草四郎は生前、数多の奇跡を起こした存在として、崇められていたらしい。どこまで本当なのかは分からないが、今のももしかしたら、彼が起こした奇跡の一端なのかもしれない。
「四郎様! この間、四郎様がお祈りしてくださった場所では、イモが良く育ちました! また、ウチの畑をみてやってくだせぇ!」
歩いていれば、また話し掛けられる。今度は、前歯も欠けた壮年の男性だった。
「ははは。それは偶然でしょう。私よりも、主の恵みに感謝ですよ。」
「いやいやいや! ご謙遜を! 俺たちにとっちゃ、四郎様は神様も同然。これからも、この地を御守りくだせぇ!」
「コラー! アンタいつまで油売ってんだい!? ちったぁ働きな!」
遠くから、女性の声が聞こえる。
「おっと、これ以上サボると、母ちゃんにどやされちまう。ありがとう、四郎様!」
そう言って男性は、そそくさと立ち去った。
天草はそのまま、小さな礼拝堂へ移動して、神に祈りを捧げた。小さな声で紡がれる祈りの言葉。そのほとんどは、私には馴染みも無いもので、その意味もほとんど分からず、右耳から左耳へと通り過ぎていくような始末だった。彼の声以外は何も聞こえない、静かな空間。しかし、その静寂は、突如として破られた。