愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第7章 愛の唄 Ⅵ
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私が目を開けると、そこは何というか、時代劇に出てきそうなセットだった。残念ながら、そこにある物を見ただけで時代が特定できるほど、私に歴史の知識なんて無いけれど、日本だということぐらいは分かる。私の周りでは、和装の男女が、家の前で野菜らしきものや、干物らしきものを売っていた。その周りで、幼い子どもたちが走り回っている。しかし、よく見れば、周囲の人々は皆痩せており、売られている品物の数も少ない。
民家の裏手では、人々が男女問わず農作業に勤しんでいた。しかし、農業については素人そのものの私が見ても、育っている作物は、それほど多いとは言えなかった。
(ここは―――――、一体……。)
「四郎様! 今日もお元気そうで!」
30代ぐらいだろうか? その割には、随分と白髪が目立つ髪をした女性が、此方へ近づいてきた。
「四郎様のお蔭で、あの子は今日も元気で、乳を飲んでいます! 貴方様の奇跡には、何とお礼を申し上げれば良いか……!!」
女性はそう言って、私の手を取って、涙を流した。ん? 私? その割には、手を握られた感触は無い。どういうことだろうか。
「それは良かったです。これからは赤子だけではなく、貴女も栄養には気を付けるべきでしょう。……このご時世では、それも厳しいことなのですが……。ですが少なくとも、体を冷やさぬよう、気を付けてくださいね。」
(―――――!?)
間違えるはずもない。この声の主は、間違いなく天草四郎だ。ということは、この時代劇のようなセットは、江戸時代―――――、天草四郎が生きていた頃の記憶――――ということになる。どうやら、私はそれを、天草四郎視点で見ている、ということか。手を握られた感触がないのは、天草四郎自身が、そこまで記憶していないのか、はたまた別の理由があるのか。そこまでは分からない。