愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第6章 愛の唄 Ⅴ
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「え? なんで?」
風呂から上がり、片付けなども一通り終わらせたらしい天草に案内された部屋は、彼の寝室だった。
何ということもない、8畳の和室だった。そこに、簡素な机と本棚、備え付けの押し入れがあるだけの、簡素な部屋だった。だから、問題はそこじゃない。問題は、畳の上に、布団が2組敷かれているということだ。
「何故も何も、これが最も手っ取り早く、効率的だからです。一晩限りの、仮契約。一夜の契りに、一夜の夢。えぇ。貴女への肉体的負担は最小限に抑えますし、精神も危険な領域に達した瞬間すぐに対処しますから、ご心配なく。」
「……!?」
「あぁ、言っていませんでしたね。私は“サーヴァント”と呼ばれる存在で、以前は私を喚(よ)び出した“魔術師”と契約していました。これから行うのは、その体験版とでも思っていただければ。魔術師とサーヴァントは、夢などを介して意識を共有することができますから、それを利用します。まぁ、貴女は難しいことを考えずに、ただ眠っていれば、それで済みます。」
「それでは、準備はよろしいですか? では、失礼します。」
そう言って、天草は私を布団の上へと押し倒し、その右手を私の服の下、心臓の辺りへと滑り込ませた。そして、その左手を私の額へ。何が起こったのか、一瞬分からなかった。
「え……!? ちょっ……?」
その箇所は、さすがに恥ずかしいのですが!? そう思ったけれど、天草は「動かないでください」と言ったきり、真剣な表情で私の目を見つめている。その後、身体中をビリッと電気が走ったような感覚。でも、だからといって何ということもない。天草の両腕は、私の身体から離れていく。それが何故か、ひどく名残惜しかった。ゆっくりと上半身を起こす。特に問題は無さそうだ。
「はい。仮契約は完了です。……やはり、こんなところまで、同じなのですね。」
「……?」
「いえ、何も。兎に角、これで、貴女と私には仮のパスが繋がりましたから、あとは眠るだけですよ。」
「いや、眠れって言われても、そんなにすぐに眠くもならないし……。」
眠れと言われても、そんなにすぐに眠気が襲ってくることも無い。というか、仮にも男性を目の前にして、ぐぅすかと寝られるほどに、私の神経は太くない。