愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第2章 愛の唄 Ⅰ
「随分だな、聖人よ。」
黒い泥に蝕まれながら、黒衣の復讐者は、天草を睨み付ける。
「この規模の聖杯に出会えることは、極めて珍しいですから。」
あくまでも穏やかに、天草は問答をする。
「聖杯を其の掌に収めるためならば、己のマスターを裏切るのも吝かではないということか?」
復讐鬼からは、黒い炎が燃え盛っている。
「いえ。裏切りは、咎められるべき行為です。しかし、私にだって。譲れぬ願いというモノがあるのです。」
いたって当然といった風に、天草は返答する。
「では、力で貴様を破壊するしかないのだな、叛逆の聖人よ。」
「いえ。正直、貴方の相手は骨が折れます。というか、相性的にも遠慮したいですね。それに、シャドウサーヴァントがまた増えてきましたので、貴方にはぜひそちらをお願いしたいのですが。ほら、あそこに、陰からマスターを狙っている敵もいますし。それが、最もお互いの為になると思いませんか?」
「貴様……!」
「それは是非、私からもお願いしたいね!」
「えっ?」
場に全くそぐわない、美しく溌剌とした声が、辺りに響く。蒼白い光と共に、その声の主が、地上へと降り立った。
「ハァイ、マスター! みんなの頼れる技術部門トップ! 稀代の天才、ダ・ヴィンチちゃんだよ! マスター、よくぞここまで時間を稼いでくれた! あとは、この大天才に任せておきたまえ!」
ダ・ヴィンチはマスターへウインクを飛ばすと、天草と対峙した。
ダ・ヴィンチが杖を構えた瞬間、拘束魔術が天草の身体を捕らえた。濃密度のエーテルで作られたリング状の拘束具が、天草の上半身へと取り付き、彼の動きを封じる。
「マスターに対して、2度目の叛逆。もう、捨て置けないよ。」
ダ・ヴィンチは、冷静な声で天草へ言い放った。
「あぁ……。おかしいとおもっていました。成程。今までマスターの通信に応じなかったのは、この為でしたか。突入の隙を伺っていた……、と。」
「その通りだけど?」
「キャスター/レオナルド・ダ・ヴィンチ……。バックアップの仕事を放り出してまで、戦場に出てくるのは、意外でした。カルデアは、よろしいのですか?」