愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第2章 愛の唄 Ⅰ
「固有結界なんて持ち出されては厄介でしたし。致し方ありませんね。」
そう言って天草は、元・マスターである少女に、笑みを漏らす。苦笑に近い笑みだった。
「やめて! もうやめてよ、天草!! お願いだから!!」
悲鳴にも似た少女の声が、虚しく響く。その眼には、涙が浮かんでいた。
「おかあさんを……! 泣かせるなァッ!」
シャドウサーヴァントの群れを切り裂きながら、アサシン/ジャック・ザ・リッパーが駆ける。
「――――っ!」
避けきれなかった攻撃が、ジャックを掠め、確実に体力を奪っていく。ジャックは数分と経たぬうちに、満身創痍となった。しかし、ジャック本人は、そんなことなど意にも介さない。
「やめて、ジャック!」
少女の叫びも、激昂したジャックの耳には届かない。
ジャックは全速力で移動し、天草の後ろを取る。アサシンの速度には、流石の天草も敵わない。
「死ね―――――、ぁ、れ……?」
ジャックの身体は、空中で固定されたまま動かない。ジャックは、何が起こったのかさえ理解できないといったふうだ。
「惜しい惜しい。ですが、貴方は無策に過ぎました。」
「ぁ―――――!」
ジャックの幼い顔が、恐怖に歪む。
「幼い貴方に乱暴はしたくなかったのです。ですから、せめて安らかに。」
そう言って、天草は自らがいつも首から下げている十字架を手に、幾らかの詠唱を呟いた。それが洗礼詠唱であると気付くのに、マスターである少女は五秒と掛からなかった。
『――――――“この魂に憐れみを”(キリエ・エレイソン)』
「おかあさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
ジャックは消滅の際に、悲痛な叫びを残した。
「ひ、どい……。」
少女は、その双眼を見開きながら、その場に膝から崩れ落ちた。