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愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】

第6章 愛の唄 Ⅴ



「その疑問は、至極当然なものでしょう。かつて私は、憎んだことがあります。神も、人も、全て。ですが、それは私や、私の周りにいた親しい人たちを殺されたからではありません。それを、歴史の構造(システム)として受け入れる、人類そのものが憎らしかった。弱者を喰い物にして、強者が肥大化する。弱者の命を消費することで成長していく人類が、ただ憎かった。ですが、それも昔のことです。私は、自らの憎しみを捨て去り、すべてを救うと決めた。だから今は、誰のことも憎くはありません。私は、人類を深く愛しています。私は、弱者が踏みにじられ続ける世界を、聖杯という奇跡の力で変えたい。すべてが慈しまれる世界にしたい。これが、私の願いです。」

 彼の瞳は、あまりにも澄んでいた。その瞳の真っ直ぐさに、私は一瞬、納得しかけてしまった。

「……。」
 それを振り払うように、私は自分の頭をブンブンと左右に振った。

「じゃあ、君が望む“人間”って……?」
 彼が望む“人間”は、一体どのような存在なのだろうか?
「我欲が薄く、全ての存在に対して公平。生への苦しみも、痛みも、絶望も無い。死を実感しながらも、生を求めて足掻くこともない。そんな存在ですね。」

 私に、難しいことは分からない。でも、それでも、分かることもある。……それは、きっと、多分、ううん、絶対に、おかしいんだ。そういう考えを抱く“天草四郎”という人間がおかしいんじゃない。そこまでの考えを抱くことになってしまった、その過程が、きっと、多分、“天草四郎”を苦しめて、こういう考えを抱くに至ったんだろう。なぜだろう。理由はよく分からないけれど、私はそう思った。胸が締め付けられるような想いがした。呼吸が苦しい。
 それに、人類を本当に愛し、信じているのならば、そんな“救済”手段は、多分選ばない。私は何となく、そう直感した。うまく言葉としてまとまらないけれど、それは人類の“救済”ではなく、人間を別の生物へと“置換”させるだけの行為ではないだろうか?
 少なくとも、人間に対して、ある種の“見限り”のようなものがないと、この結論には至らないようにも思える。



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