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愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】

第6章 愛の唄 Ⅴ


「救済です。」
「救済……?」
「全人類の救済だよ。」
 彼は真っ直ぐに、私を見た。
「全人類の、救済……。」
 あまりにもスケールの大きな言葉に、私は言われた言葉をただ繰り返すことしかできなかった。
 全人類の救済……? そんなことを言われたところで、その意味するところなんて、私には全く分からない。
「どうやって……?」
「第三魔法の行使……なんて言っても、貴女にはピンと来ませんね。簡単に言えば、聖杯の持つ奇跡の力を使って、人類をみんな、不老不死にして虚栄の心を鎮め、万人が善き存在であるようにすること。万人が幸福である世界。あらゆる悪が駆逐された世界。平易な言葉で言えば、平和な世界を創ることです。」
「……。」
 頭を、鈍器で殴られたぐらいの衝撃を受けた。
 話のスケールが大きいとかいう話じゃない。この極端な“願い”を抱くまでに、彼は何を見て、何を感じ、どう思考するに至ったのか。それが分からないからこその、衝撃だった。彼は一体、胸の内に何を抱えているのか。
 そして私は、今になって気付いた。私は今、深淵を覗き込んでいる。そしてその深淵も、私を捉えている。

「……まぁ、貴女にはあまり縁のない話ですね。この話は、これで終わりとしましょう。」

 そう言って、彼は目を伏せて、もう一口、紅茶を口に含んだ。

「ちょっと、待って……。“救済”って言うけど、それ以前の問題として、君は人間を怨んではいないの?」
 そう。史実における天草四郎の最期は酷いものだった。確か、3万7千人とも言われている天草四郎率いる一揆軍は、幕府によって皆殺しにされた挙げ句、彼もまた斬首刑となった。殺された人間の中には、きっと彼が愛した人々も多くいたであろうことは、想像に難くない。これはやや極端かもしれないが、そんな経験をした人間ならば、人類の救済どころか、人類を滅ぼすことを考える事のほうが順当な気さえする。それに、その“救済”方法だ。彼は、本当に人間を愛し、導こうとしているのだろうか? 私の頭の中で、うまくまとまらないが、強烈な違和感だけが、脳にべったりとこびりついている。

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