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愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】

第5章 愛の唄 Ⅳ



「並行世界、パラレルワールドという言葉をご存知ですか? 私はそこで、魔術師により召喚されました。さっきも言った通り、魔法使いが異世界からドラゴンを呼びつけるように、です。ですが、戦いの中で、私は戦いの報酬を強奪しようとした。その結果が、あのザマです。」
 そう言って、天草四郎はにこりと笑った。ゾクリとしたものが、私の背筋を走り抜ける。この男、笑っているように見えて、目は笑っていない。これ以上踏み込むのは、明らかに危険だ。私の脳が、警鐘を鳴らす。でも、不思議なくらいに、今の私は、目の前の彼に魅せられている。彼のことが、知りたい。無謀だと理解している。それでも、手を伸ばさずにはいられない。私の手が、仮に痛みを覚えることになったとしても、だ。理由は分からない。ただ、目の前にいる、“天草四郎”という存在に触れたくて、仕方がない。どうしようもないぐらいの、衝動。私は未だかつて、自分の人生でこれほどまでに、何かに対して強い感情を抱いたことがあっただろうか。数分前の私なら、その問いに対しても、冷静に答えることができただろう。でも、今は。

「強奪って、どういうこと……?」
 私はいよいよ、危険な領域に、足を踏み入れた。
「そのままの意味です。」
 彼は変わらず、表面上は微笑みを浮かべている。
「報酬なら、普通に交渉して、自分の取り分を“貰え”ば、それで済むはずだよね。」
「全く以ってその通りです。ですが、それは“正当な報酬”を、受け取る場合です。それ以上の報酬を望んだ場合は、別でしょう?」
 理屈としては通っている。例えばこの社会でも、労働に対して正当な対価を支払ってもらいたい場合は、普通に請求をかければいい。相手が応じない場合には、正当な手続きを踏めば、大抵の場合は、その正当な要求が通る。でも、自分の労働以上に賃金を要求したり、契約とは異なる種類の報酬を求めようとしたりすれば、話は別だ。その要求が受け入れられることは、まずない。もし、それを無理矢理にでも、手っ取り早く行うとすれば……。
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