愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第5章 愛の唄 Ⅳ
「さて、もうそろそろ時間になるのですが、あと1つか2つなら、大丈夫だと思います。何か、希望はありますか?」
「う~ん……。」
そう言われても、特に浮かばない。それでも、何も乗らないというのは、勿体無い。
「それじゃあ、これ。」
茂蔵おじいちゃんのいる喫茶店のすぐ近くにある、観覧車。これなら、おじいちゃんから連絡が来ても、すぐに行くことができる。それに、高いところから見る景色は、綺麗に違いないと思った。それに、少しでも、彼と話ができるかもしれないと、そう思ったのだ。
「では、行きましょう。」
観覧車に乗るときには、結構な段差があったのだが、彼は自分が先に乗り込み、手を差し出してくれた。一瞬、その行動に驚いたが、素直に手を取ることにした。男性からこんな風にされたのは、きっと私の人生始まって以来だ。妙なところで変な感動を覚えながら、観覧車に乗る。
大きな観覧車。ゆっくりゆっくりと、その高度が上がる。私は目の前の“彼”のことを、あまりにも知らない。彼は、本当は何者なのだろうか。どうして、過去の人物であるはずの“天草四郎”である彼が、現代にいるのか。どうして、ここにいるのか。――――どうして、あんな雨の中を、それも満身創痍で倒れるに至ったのか。どれひとつとして、私は知らない。
「ねぇ、どうして―――――」
「夜景、綺麗ですね。」
私の声に被せるようにして、彼は口を開いた。偶然だろうか。
「うん。綺麗。」
「この時期だと、一般の家庭でもイルミネーションをしているところがありますね。」
「うん。」
流れる沈黙。その沈黙を破るのは、私。
「どうして、あんな酷い雨の中を、倒れていたの?」
彼の顔に、いつもの穏やかな微笑みは無い。それでも、私は口を開く。
「――――ごめんなさい。きっと、知られたくない事情があるんだよね。でも、気になって。」
「いいえ。その疑問は、正当なものです。そもそも、『私は天草四郎です』等と死んだ人間の名を名乗られて、はいそうですかと信じてもらえるなどとは、思ってもいません。」
「ううん。それは、もう、信じることにした。だって、嘘を言っているようには、思えないから。」
「そうですか。……そうでしたね。貴女は、そういう人でした。」
「……?」
どういうことだろう。胸がざわめく。でも、それを振り払って、会話を続ける。