愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第4章 愛の唄 Ⅲ
「怒らないの?」
「それは、貴女が史実を調べたであろうことに対してですか?」
やはり彼は、至極穏やかに、言葉を紡いだ。そこからは、一切の怒りや悲しみが読み取れない。
「えっと……。」
そうストレートに尋ねられてしまっては、困る。
「すみません。困らせてしまいましたね。」
私が返答に窮しているのを察した彼は、少し眉を下げて、微笑んだ。
「はい。情報社会ですからね。情報の精度はさておき、関連する情報ならば幾らでも知ることができるでしょう。私が“天草四郎”と貴女に名乗った時点で、それらは全て了承済みですよ。」
「そ、そっか……。」
「それに、私は確かにあの時、一揆の首謀者として斬首刑に遭いましたが、恨みや憎しみといった感情を抱いてはいませんよ。」
私の内心を見透かすようなその一言に、私は心臓を掴まれたような心地がした。しかし、彼はそんな私の心境とは対照的に、落ち着き払っていた。彼は紅茶を一口、口に含んだ。まるで、何でもない内容の日常会話をしているような、そんな穏やかな口調のままだ。
「それに、私は既に自らの“人としての生”を終えています。今は、別の目的のために、こうして人間のようにして生きていますから。」
「別の目的って……?」
「それは、秘密です。」
有無を言わせぬ笑顔だった。よく分からないけれど、目の前の“彼”には、秘密があるようだということは、分かった。そもそも、死んだはずの人間、それも歴史上の人物が何らかの方法で再現されているという時点で、何かしら重大な事情があるはずだ。きっと、彼は多くのものを抱えているのだろう。それだけは、何となく分かった。
「さて、夜も更けてきましたね。駅までお送りしても良いのですが、どのように――――」
「あああ! 四郎! 四郎!! ワシはどうしたらええのだーーーーー!?」
突然、引き戸がガラガラ、バチン! と、すごい音を立てて開いた。私はビクンとなって、音がした方向を見るしかなかった。
見れば、息を切らしたおじいさんが、肩で息をしながら、レインコートと長靴姿で立っていた。
「四郎!! 女装じゃ! 女装!! 頼む四郎! 女装してくれ! 女装!!! サンタガールじゃ!!!!!!」