愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第4章 愛の唄 Ⅲ
悲壮な顔をしたおじいさんは、あろうことか、女装を連呼している。それも、わりとすごい声量だ。大雨なので、ご近所に聞こえる心配はなさそうだけれど、そういう問題ではない。
「お義父(とう)さん……。一体、どうしたんですか……。」
「聞いてくれ四郎! 明日の行事の、サンタ役の娘が、インフルエンザで倒れたと、連絡が入ってしもうたんじゃ!!! 本番は明日じゃぞ! 明日! 今更代役が見つかるとも思えんし、こうなったら、ワシかお前さんが、女装するしかあるまい!!?」
お養父さんと呼ばれた老人は、悲痛な叫びをあげている。
「それは困りましたね……。ですが、先にレインコートを此方に。傘は、傘立てに。」
彼は、特に慌てる様子もなく老人へと近づき、落ち着いて対応している。このようなことは、慣れていると言わんばかりの対応だ。
「おぅ……。相変わらずの冷静沈着ぶりじゃな。ワシはこのような息子を持てて幸せ者じゃな。」
老人は、ひとりでうんうんと頷いている。
「サンタガールの衣装だけは預かってきたから、着替えてみてくれ、四郎。」
そう言って、老人は鞄からサンタガールの衣装を出して、彼へと突き出した。真っ赤なワンピースに白いファー、腰の辺りにベルトが付いたデザインは、どこからどう見ても、可愛いサンタガールの装束だ。スカート丈が長めなのも、上品な感じで良い。
「えっ……。本気ですか……?」
私との会話ではあんなに落ち着いていたのに、今の彼は明らかに困惑している。
「大丈夫じゃ、四郎。恥ずかしいのは最初だけじゃ。」
そう言って、老人は優しく微笑んだが、セリフは果てしなく物騒だった。
「何を言ってるんですか……。幾ら何でも無理がありますよ、全く……。」
彼は、呆れ気味にそう言った。
「じゃが、サンタガールがいなくては、あの女の子は……。」
そう言って、老人は目を伏せた。女装女装と連呼していたが、何か事情があるようだ。