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愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】

第4章 愛の唄 Ⅲ


「あぁ、私の言ったことを、信じてくれているのですね。ありがとうございます。えぇ。私は、天草四郎。天草四郎時貞です。」
 そう言って彼は、一点の曇りもない目で私を見た。この目を見て、それが嘘だと言える人間なんて、この世にいるのかと思えるぐらいに、その瞳は澄んでいた。
 ―――――天草四郎時貞。江戸時代初期に起きた一揆、島原の乱で、指導者を務めた少年。生まれは、当時としてはそれなりに裕福で、学問にも励んだと言われている。様々な奇跡を起こし、人々に崇められて、一揆の指導者となった。江戸幕府を相手に一揆を行ったけれど、最終的には一揆軍は全員命を奪われて、その指導者だった“天草四郎”も、16歳か17歳の若さで、斬首刑に……。
 昨日調べたばかりの内容が、頭の中をよぎった。ストーブの真ん前を占拠して暖を取らせてもらっているのに、身震いがした。

「私の生前でも知ってしまったのですか?」
「……!?」
 完全な不意打ちを喰らって、私は言葉を失ってしまった。これでは、「はいそうです」と明言してしまったようなものだ。勝手に過去を調べられたのだ。彼は気分を害してしまっただろう。もう、素直に謝るしかない。

「……ごめんなさい。」
「いえ。謝る必要はありませんよ。所詮は生前の話です。過去は変えられませんから。」
 澄んだ声で、彼はそう言い切った。そこには、いかなる感情も含まれてはいなかった。少なくとも、私は彼の気分を害してしまったわけではないらしい。でも、それが逆に不自然なようにも思えた。彼の短い生涯は、決して幸せな形で幕を下ろしてはいない。むしろ、その最期は「悲惨」という言葉では表現できないほどの惨劇だった。
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