愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第4章 愛の唄 Ⅲ
「―――――分教会?」
かの有名な宗教の、分教会と書かれた表札を見つけた。もう、それ以外に、建物は見当たらない。いや、あるのかもしれないけれど、視界が悪いし、このずぶ濡れ状態で、これ以上歩きたくない。それに、教会の人間ならば、この状態の人間に、出て行けなどとは言わないだろう。
分教会の門に、鍵は掛かっていなかった。不法侵入だと分かってはいるけれど、敷地内の、雨の当たらない場所へと足を進める。何も、建物の中へ侵入するわけではないのだ。もしも、関係者に見つかったら、事情を正直に話して、許してもらおう。
屋根に覆われた、建物の真下へ、とりあえずしゃがみ込む。先程から背中がゾクゾクするし、風邪をひきそうだ。早く家に帰りたいが、今は疲れていて、動きたくない。
風がさらに強くなってきた。雨が直接私の身体に当たらないだけでも有り難いのだけれど、やはり寒さが身に凍みる。そう言えば、1か月ほど前に出会ったあの“彼”も、その時にはこんな気持ちだったのだろうか。いや、彼の方が、高熱と外傷で、もっとひどい状態だった。
「さ、寒い……。」
しゃがみ込んだ自分の身体を抱え込むようにして、さらに身を縮める。気温が、ぐっと下がってきたように感じる。このままではダメだ。端末で現在位置を調べて、何とかしてタクシーでも呼ぼうかと、鞄を開けた時に、私の背後にあった引き戸が、ガラガラと音を立てて開いた。
「ぁ……。」
驚いて、背後を振り返る。
「貴女は……。」
そこには、別れた時と同じ。黒い上下を身に纏った“彼”が、いた。