愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第4章 愛の唄 Ⅲ
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「―――――うっわ、もう、何コレ……!」
私は、季節外れの大雨の中を、ひたすらに走る。しかも、寒い。寒すぎる。冬にこんな大雨が降るなんて、それも天気予報をすり抜けての、大雨だなんて。冬は、日没が早い。太陽は既に沈みきっており、辺りは暗い。それよりも、私は全身ずぶ濡れだ。仕事で少し離れた土地へ来た。そして、今日の予定を全て終えたところまでは良かった。問題は、私が帰路に就き始めてしばらく経ってから降り始めた、この大雨だ。この辺りは、街からそう離れてもいないはずなのに、微妙に開発が遅れているのか何なのか、大型のショッピングモールはおろか、コンビニやスーパーの数も少ない。民家や集合住宅などはそれなりにみられるが、雨宿りできそうな場所が、ほとんど見当たらない。おまけに私は、折り畳み傘を入れ忘れるという失態も犯している。だから、濡れながらも駅へ向かうぐらいしか、選択肢が残されていない。今更、先程までいた仕事先へ戻るのも、それなりに歩いてしまったために、勿体無い選択肢のような気がする。どうせ濡れるのならば、自宅に近付くために濡れたいという私の思考は、まっとうなものだろう。
濡れながらも、私は走る。でも、どういうわけなのか、一向に駅が見えてこない。
「来るときに、あの信号を右折したと思ったんだけど……。」
そうやって独り言を言ってみても、駅らしいものが見えない。この状況で、それは流石に焦る。端末で現在位置を確認しようにも、この大雨だ。どこか、落ち着ける場所が欲しい。雨は、止むどころか、一層激しく降り始めた。風まで吹き始めてきた。もはや、嵐の様相だ。
「此処、どこ……?」
土地勘のない場所で、それも嵐の中を、私は迷っている。もう大人なのに、涙が出てきた。髪も、コートも、鞄も、全部ぐっしょりと濡れている。視界すらも、この嵐で最悪だ。
無暗に歩き回る方が悪いと知っていながらも、私はそのまま歩き続けた。何分歩いたかは分からない。でも、適当に路地を進んだところで、比較的大きな建物を見つけた。