愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第4章 愛の唄 Ⅲ
目を覚まして、かつてのマスターと瓜二つの女性から、食事を与えられ、彼女と幾らか会話をする。彼女の名前が、かつて仕えたマスターと同じものだと知ったときには、流石の天草も驚きを隠せなかったが、それだけだった。今の天草にとっては、同姓同名の彼女は、ただの恩人であり、それ以上でもそれ以下でもない。無論、世話になった、恩義のある相手だ。質問には誠実に返答するし、礼儀も尽くす。だが、いつまでもこの見知らぬ女性の部屋にいるわけにもいかない。体調が回復次第、天草は早々に彼女の元を後にした。
どう見ても、というか、魂の色までもが、“彼女”と同じだったのだ。ということは、この世界に来て天草を介抱した女性は、以前のマスターと同一存在ということになる。しかし、以前のマスターと同一存在の女性が魔術師として存在していないことから、この世界は、所謂“if”の世界ではないかと、天草は推測する。或いは、剪定され、削ぎ落とされる世界ではないかと、仮説を立てる。つまり、この世界は、あり得た可能性のうちのひとつとしての世界であり、本筋から外れている世界である、ということだ。こういった場合、数百年だとか、千年だとか、とにかく一定の時間ごとに世界から見限られ、消滅するだけの、泡沫のような世界線である場合が多い。勿論、本流である本来の歴史の流れへ影響を与えることも不可能ではないため、それは今後の動きようによりけり、というところである。この仮説が正しければ、天草の夢はまだこの世界に在っても潰えていないということになる。例えば、この世界の大聖杯を掌握して、大規模儀式を完遂させるなどすれば、本流である歴史の流れへと介入できる可能性が出てくる。天草は、これらの仮説に基づく希望を胸に、啓示によって示された場所へと移動した。