愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第4章 愛の唄 Ⅲ
刹那、天草は自分の心臓が止まるかとさえ、思った。
「―――――ッ! 大丈夫、ですか!?」
「す、すぐに救急車をよびますから、しっかりしてください!」
自分がつい先ほど“裏切った”“少女”と、瓜二つの姿をした女性が、そこにいたのだから。それも、何を言っているのかなんて、瞬時に理解などできなかったが、何やら必死の形相で叫んでいた。あぁ、成る程。自分は今から、この女性から裁きを受けるのか―――――天草は、漠然とそんなことを考えていた。
しかし、あろうことか、その女性は、天草を罰するどころか、介抱を始めたではないか。あまりの事態に、天草は言葉を失った。
女性は、自らが生活を営む部屋へ、天草を招き入れ、自身の寝具さえも貸し与えたのだった。
天草は、深く、深く眠っていた。天草の意識は、深い場所へ落ちていた。
そして、天草は夢をみる。両腕が、ボロボロになっている夢。そして、悟る。
―――――あぁ、コレは現実なのだと。強引に受肉した、代償なのだと。
魔術行使の万能鍵としての両腕(宝具)は傷ついているのだと、知った。“あの時”と同じように、刃が己の首を刎ねる。首に提げていた十字架も、糸が切れて、遠くへ離れていく。もう既に、手の届かない場所にある。神の声も、もしかするともう聞こえなくなるかもしれない。自分の霊基は、まだルーラーとして機能しうるのだろうか。
酷い、話だ。これでは、サーヴァントとして二流どころか、それ以下だ。
(それでも、俺は――――――。)
聖杯を求め続け、人類の救済をこそ完遂させるのだと、拳を握る。この両腕で、遍く全人類を、救済するのだと、そのためにのみ、己はあるのだと。己の身には、何十億という人間の救済が課せられているのだ。後には引けない。今まで払ってきた犠牲を無駄になどできない。立ち止まる選択肢も、引き返す選択肢も、元より存在しない。存在してはならない。
浮上していく意識の中で、天草は自らの存在意義を、再びその胸へ、身体へと刻み付けた。