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愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】

第3章 愛の唄 Ⅱ


***

 翌朝、私が目を覚ますと、“天草四郎”と名乗った彼は、真新しい黒の上下を身に纏っていた。その美しい立ち姿に、思わず息を呑んだ。そう言えば、初めて会った日も、黒い服を身に纏っていた気がする。
「おはようございます。お陰様で、ほぼ回復しました。これならば、充分に動くことも出来ます。」
「お、おはよう、ございます……? えっと、その服は……?」
「これは、私が魔力で編んだモノです。」
 魔力……? 聞き慣れない言葉が出たけれど、目の前の人物が“天草四郎”というぐらいなので、この程度の事は、もはや些末な気さえもする。
「この3日間ほど、貴女には随分とお世話になりました。倒れていた、素性も知れない私を優しく介抱してくださった事、心から感謝します。」
 唐突に過ぎるが、これは別れの挨拶なのだと、瞬時に悟った。
「そっか。もう、行くんだね……。」
 そう言えば、宛てはあるのだろうか? 行き倒れていた彼だけれど、目的地などはあったのだろうか?
「これから、何処へ行くの?」
「そうですね……。まずは、仕事を探して、情報収集ですね。いつまでも、優しい貴女に甘えているわけにも、いきませんから。」
 そう言って、彼はニコリと微笑んだ。でも、仕事を探すと言ったって、そんなにすぐに見つかることは稀だ。それに、目の前の彼は恐らく一文無しだ。それでは、どうしようもないのではないだろうか。しかし、彼はそんな私の思案を見透かすように、こう言った。

「心配には及びません。既に、啓示は下りています。私は、神に示された場所へ向かいますから。」

 澄んだ瞳で、キッパリと。そこから、不安な様子などは微塵も感じられなかった。啓示って何だろうとか思ったけれど、その声があまりにも透明だったから、私は何も言えなくなってしまった。

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